「優秀なエンジニアを採用したいが、国内では全然採れない。外国人エンジニアを雇いたいけど、ビザの手続きが複雑そうで何から始めればいいかわからない」
「スタートアップだと設立間もないけど、それでも外国人を採用できるのだろうか」
IT人材不足が加速するなか、外国人エンジニアの採用は多くのスタートアップにとって現実的な選択肢となっています。使うビザは「技術・人文知識・国際業務(技人国)」。しかし、スタートアップ特有の書類要件や2026年4月に実施された審査厳格化など、知らないまま進めると不許可になるリスクもあります。
この記事では、外国人採用が初めての企業担当者に向けて以下のポイントを解説します。
- 技人国ビザの基礎知識と対象になる業務・ならない業務
- スタートアップ(カテゴリー4)が準備すべき書類と事業計画書の作り方
- 最小コストで受け入れ体制を整えるための実践ポイント
最短ルートで外国人エンジニアを採用するための知識をすべてお伝えします。
技人国ビザとは?スタートアップが外国人エンジニアを採用できる法的根拠
在留資格「技術・人文知識・国際業務」の定義
技人国ビザとは、入管法に定められた就労ビザのひとつで、「理学・工学などの自然科学の分野、または法律学・経済学などの人文科学の分野に属する知識を要する業務に従事する活動」を行う外国人に与えられる在留資格です。エンジニア採用では主に「技術」カテゴリーが該当し、システムエンジニア・プログラマー・データサイエンティスト・機械工学技術者などが対象となります。
在留期間は5年・3年・1年・3ヶ月のいずれかで、初回は1年または3年が一般的です。
採用に必要な4つの要件
| 要件 |
内容 |
| ①学歴または実務経験 |
大学(海外含む)・短大・日本の専門学校卒業のいずれか。学歴がない場合は実務10年以上で代替可 |
| ②専攻と業務の関連性 |
大学での専攻内容と従事する業務内容に関連性が必要 |
| ③受入機関の安定性 |
事業が適正に行われており継続性が認められること |
| ④同等報酬 |
同一業務の日本人と同等以上の賃金(大卒エンジニアの目安:月額25万円以上) |
ITエンジニア特有の「学歴・経験不問」ルート
経済産業省が指定する情報処理技術に関する試験・資格(IT告示)に合格している場合は、学歴・実務経験の要件が不要になります。たとえば、応用情報技術者試験やITEEの認定資格、海外の同等資格が対象です。独学でスキルを身につけたエンジニアを採用したい場合、このルートが有効です。
対象外の業務(注意)
以下の業務は「技術」「人文知識」に該当せず、技人国ビザでは就労できません。
- 工場でのライン作業・梱包・品出しなどの単純作業
- マニュアル通りのみの運用監視・データ入力・キッティング
- 飲食店での接客・調理補助
- 技能的業務(バイクのタイヤ交換・部品取り付けなど)
注意: 「エンジニア」という肩書きでも、実際の業務が単純作業であればビザは取得できません。2026年4月の審査厳格化により、業務実態の確認が強化されています。
スタートアップが外国人エンジニアを採用すべき理由
深刻化するIT人材不足
経済産業省の調査によると、2030年には最大
79万人のIT人材が不足すると試算されています。2025年時点でもすでに約43万人の不足が生じており、国内採用市場での競争は激化する一方です。技術・人文知識・国際業務の在留資格で就労する外国人数は2024年末時点で
418,706人に達し、前年比56,360人増と急増しています。スタートアップが外国人エンジニアに目を向けることは、人材確保の合理的な選択です。
スタートアップにとっての具体的なメリット
- 国内人材プールを超えた採用:アジア・ヨーロッパの優秀な若手エンジニアにアプローチできる
- 実力主義カルチャーとの親和性:外国人エンジニアは年功序列より成長環境を重視する傾向があり、スタートアップ文化と合いやすい
- グローバル展開の足がかり:多様な言語・文化背景を持つメンバーがいることでプロダクトのグローバル対応力が高まる
- 助成金の活用:賃金要件を満たす場合、人材確保等支援助成金(外国人労働者就労環境整備助成コース)で支給対象経費の2/3・上限72万円の助成を受けられる(厚生労働省)
給与水準は日本人と同等が基本
技人国ビザでは「同等報酬」が必須要件のため、外国人だからといって極端に低い給与は設定できません。アジア系の若手エンジニアの場合、月額20〜30万円が現実的なレンジです。国内の中途採用エンジニアと比べてコスト差は小さいですが、採用難易度や即戦力性を考慮すれば十分に競争力があります。
採用から就労開始までのフロー

外国人エンジニアの採用フローは、相手が海外在住か日本在住かによって大きく異なります。
パターンA:海外在住者を採用する場合(COEルート)
- 内定・雇用契約締結
- 在留資格認定証明書(COE)申請(会社が入管へ提出)
- 審査期間:標準1〜3ヶ月(混雑期の2〜6月は長期化)
- COE交付 → 本人に電子送付または郵送
- 現地日本大使館・領事館でビザ申請(数日〜2週間)
- 入国・在留カード交付 → 14日以内に住民登録
- 就労開始
ポイント: COEの有効期限は交付から原則3ヶ月以内に入国が必要です。入国が遅れた場合は再申請が必要になります。
パターンB:日本在住者(留学生など)を採用する場合(変更ルート)
- 内定・雇用契約締結
- 在留資格変更許可申請(本人または申請取次者が入管へ)
- 審査期間:標準1〜2ヶ月(2024年実績で平均約65日)
- 新在留カード交付 → 就労開始
大学・大学院に在学中の留学生を採用する場合はパターンBが適用されます。審査期間が短い分、スケジュールを立てやすいのが特徴です。
オンライン申請の活用
出入国在留管理庁のオンライン申請システムを活用すると、書類の不備による差し戻しが減り、進捗管理も容易になります。企業が利用するには申請等取次者の承認が必要ですが、2025年4月の改定でオンライン申請の手数料が窓口より安価になっており、活用のメリットが高まっています。
スタートアップが準備すべき書類と事業計画書の作り方
カテゴリー制度とスタートアップの位置づけ
出入国在留管理庁は受入企業を4つのカテゴリーに分類し、必要書類の量が大きく異なります。スタートアップ(設立1年未満・法定調書未提出)は最も書類負担が重い
カテゴリー4に分類されます。
| カテゴリー |
該当企業 |
書類負担 |
| カテゴリー1 |
上場企業・政府機関・独立行政法人など |
最小 |
| カテゴリー2 |
前年の源泉徴収税額1,000万円以上の企業 |
少ない |
| カテゴリー3 |
法定調書を提出している中小企業 |
多い |
| カテゴリー4 |
設立1年未満・法定調書未提出(スタートアップ) |
最大 |
カテゴリー4で必要な主な書類
- 在留資格認定証明書交付申請書(または変更許可申請書)
- 雇用契約書の写し
- 外国人本人のパスポート・在留カード写し
- 卒業証明書・成績証明書・履歴書
- 登記事項証明書・定款の写し
- 直近3ヶ月分の給与所得等の所得税徴収高計算書(税務署受付印あり)
- 前年の法定調書合計表がない理由説明書
- 会社案内・公式ウェブサイト(事業実態を示す)
- 事業計画書(最重要書類)
- 外国人採用の合理性説明書
事業計画書で「安定性・継続性」を証明する
スタートアップ最大の関門は「事業の継続性」の証明です。設立間もない・赤字決算でも、以下の内容を事業計画書に盛り込むことで審査を通過できます。
- 市場規模と競合優位性:ターゲット市場の規模、自社の差別化ポイントを客観的データで示す
- 資金調達状況:VCからの調達済み資金・投資家名・調達額・投資契約書の写しを添付。入管は継続性の根拠として評価する
- 資金繰り計画:直近の銀行残高証明書と今後12〜24ヶ月の資金繰り表を添付
- 経営陣の実績:創業メンバーの職歴・過去の事業実績を記載し、チームの信頼性を証明
実践的ヒント: VC資金調達済みのスタートアップであれば、投資家向けに作成した既存のピッチデック・事業計画書を入管提出用にアレンジして活用できます。
最小コストで受け入れ体制を整える実践ポイント
行政書士への委託が初回は必須
技人国ビザの申請は本人または会社の申請等取次者が行えますが、カテゴリー4のスタートアップが1人目の外国人を採用する場合、
初回は行政書士への委託を強く推奨します。不許可になった場合の再申請コスト・採用スケジュールの遅延を考えると、最初から専門家に依頼する方が結果的にコストを抑えられます。
| 申請種別 |
行政書士委託費用目安 |
| 在留資格認定証明書(COE)申請 |
10〜15万円 |
| 在留資格変更許可申請 |
8〜10万円 |
| 在留期間更新許可申請(2〜3年後) |
4〜5万円 |
登録支援機関は不要(技人国ビザの場合)
特定技能ビザとは異なり、技人国ビザでは登録支援機関への依頼は義務ではありません。自社で外国人エンジニアへのサポート体制を整えることで、コストを大幅に抑えられます。
法定福利費と入社後の月次コスト
外国人エンジニアも日本人と同様に社会保険(健康保険・厚生年金・雇用保険・労災保険)への加入が義務です。社会保険未加入は在留更新の不許可原因になるため、採用前に必ず確認してください。
| 費用項目 |
目安(月給30万円の場合) |
| 月給 |
30万円 |
| 法定福利費(会社負担 約15〜17%) |
約4.5〜5.1万円 |
| 生活サポート(初年度のみ) |
1〜2万円 |
| 月次合計 |
約35〜37万円 |
住居サポートで定着率を高める(任意)
住居サポートは義務ではありませんが、来日直後は外国人が賃貸契約を結ぶことが難しいケースが多く、企業が社宅を提供することで定着率が大幅に向上します。社宅提供企業の定着率は97%超という事例も報告されています。来日直後の生活立ち上げサポート(口座開設・携帯契約・住民登録同行)にかかる費用は1人あたり5〜10万円が目安です。
2026年4月 審査厳格化!スタートアップが今すぐ対応すべきこと
4つの厳格化ポイント
2026年4月、出入国在留管理庁が技人国ビザの審査ガイドラインを改正し、審査が大幅に厳格化されました。スタートアップは特に注意が必要です。
- ①学歴・業務の関連性確認強化:履修科目・卒業論文と業務内容の詳細な関連性を審査。「IT系の学部出身だから大丈夫」では通らないケースが増加
- ②業務内容の実態調査強化:申請書の業務内容と実際の勤務内容が一致しているか、事業所への実地調査が行われる可能性あり
- ③専門性の数値的証明:肩書きだけでなく、専門業務の業務全体に占める割合を数値で説明することが求められる
- ④企業体制の精査:外国人雇用実績・離職率・同等報酬原則の遵守状況が精査される
スタートアップが今すぐ整備すべきこと
- 業務内容の定義書・職務記述書(JD)を詳細に作成し、専門業務の割合を明記する
- 雇用契約書に「実際に従事する業務内容」を具体的に記載する(「エンジニア」とだけ書かない)
- 会社ウェブサイトに事業内容・提供サービスを明確に掲載する(入管が確認する)
- 社会保険の加入状況を今すぐ確認・整備する
注意: 既に外国人エンジニアを採用済みの企業でも、次回の在留更新時に「業務実態が当初の申請内容と異なる」と判断されると更新不許可になるリスクがあります。業務内容の確認を定期的に行ってください。
よくある失敗パターンと採用コストの全体像
不許可になる4つの典型ケース
| 失敗パターン |
対策 |
| 業務内容が「技術」に非該当(運用監視・データ入力のみ) |
JDに要件定義・設計・実装などの専門業務を明記。専門業務の割合を数値で示す |
| 給与が日本人同等未満(月額17〜19万円で申請) |
大卒エンジニアは月額25万円以上を基準に設定 |
| 採用後に業務変更してビザ更新不可 |
業務変更時は早めに行政書士に相談し就労資格証明書を取得 |
| 業務委託(フリーランス)形態で採用しようとした |
技人国ビザは雇用契約が原則。フリーランス採用は経営管理ビザか別資格保有者が前提 |
採用コストの全体像(1人あたり試算)
| 費用項目 |
海外在住者採用 |
日本在住者採用 |
| 行政書士費用 |
10〜15万円 |
8〜10万円 |
| 採用媒体・エージェント |
0〜80万円 |
6〜60万円 |
| 渡航費・生活立ち上げ |
8〜15万円 |
0〜5万円 |
| 初回採用合計 |
約18〜110万円 |
約14〜75万円 |
採用後に必要な法定手続き
外国人を採用した際に漏れると罰則(30万円以下の罰金)になる手続きがあります。
- 外国人雇用状況の届出(ハローワーク):雇用保険被保険者は翌月10日まで、非被保険者は翌月末日まで。e-Gov電子申請が便利
- 社会保険加入手続き(年金事務所):入社時速やかに手続き。未加入は更新不許可の原因になる
- 住民登録サポート:入国後14日以内に市区町村役場へ届出(本人義務)。会社がサポートすると定着率向上に直結
まとめ:外国人エンジニア採用の成功ポイント
スタートアップが外国人エンジニアを技人国ビザで採用するには、制度への正しい理解と書類準備の徹底が不可欠です。重要なポイントをまとめます。
- 技人国ビザの4要件(学歴・業務関連性・企業の安定性・同等報酬)をすべて満たすこと
- スタートアップはカテゴリー4で書類負担が最大。事業計画書でVC調達実績・資金繰りを示す
- 初回採用は行政書士に委託し不許可リスクを最小化(費用10〜15万円)
- 2026年4月の審査厳格化に対応し、業務内容の実態証明を徹底する
- 社会保険加入・外国人雇用届出など法定手続きは入社と同時に完了させる
外国人エンジニアの採用には書類準備や制度理解など一定のハードルがありますが、一度体制を整えれば2人目以降はスムーズに進みます。MIRAI行政書士事務所では、スタートアップの外国人エンジニア採用をビザ申請からサポートしています。まずはお気軽にご相談ください。