「特定技能外国人を採用したいが、複数店舗間での異動はどう扱えばいい?」
多店舗展開している飲食チェーンの人事担当者から、こうした疑問をよく耳にします。今回は、外食業チェーン企業が特定技能制度を活用する際に知っておくべき、本部一括採用の仕組み、複数店舗間の配置転換ルール、エリアマネージャーによる支援体制の構築まで、実務に即して徹底解説します。
- チェーン店での本部一括採用と雇用契約書の正しい書き方
- 複数店舗間の配置転換で必要な届出と注意点
- エリアマネージャーが主導する巡回支援体制の設計方法
この記事を読めば、飲食チェーンとして特定技能外国人を安全・効率的に受け入れ、複数店舗で即戦力として活躍してもらうための全体設計が理解できます。
飲食チェーンが特定技能を活用する5つのメリット
人手不足が深刻な飲食業界において、特定技能制度は多店舗展開企業にとって特に大きなメリットをもたらします。2025年6月時点で外食業分野の特定技能外国人は累計36,281人に達しており、1年で1.8倍に急増しています。
メリット①:計画的な人員配置が可能
単発のアルバイト採用と異なり、特定技能外国人は最長5年(1号)継続勤務が可能です。チェーン全体の人員計画を立てやすく、特に立ち上げ期の新店舗やリニューアル店舗への即戦力配置が実現します。
メリット②:複数店舗間でのローテーションが可能
同一企業内であれば、手続きを踏むことで複数の店舗間で就業場所を変更できます。繁閑差の大きい曜日・季節に合わせて柔軟な人員配置が可能となり、チェーン全体の生産性が向上します。
メリット③:本部での一括採用・一括管理が実現
採用窓口を本部に集約することで、各店舗が個別に求人・面接・ビザ手続きを行う必要がなくなります。人事部門の専門知識を一箇所に集め、採用コストと管理コストを大幅に削減できます。
メリット④:多言語対応のノウハウが蓄積される
チェーン全体で多言語マニュアルや研修動画を整備することで、個々の店舗で一から教育する手間が省けます。大手チェーンの中には、多言語対応の動画マニュアルシステムを全店導入するケースも増えています。
メリット⑤:特定技能2号への移行で長期戦力化
外食業は2023年8月から特定技能2号に対応しており、2号移行後は在留期間の更新制限がなくなります。店長・エリア担当として育成することで、チェーンの中核人材として長期雇用が実現します。
特定技能外食業の受入れ要件と対象店舗の確認
チェーン店で特定技能外国人を受け入れるには、まず自社の各店舗が対象業種に該当するかどうかを確認する必要があります。また、食品産業特定技能協議会への加入が義務付けられています。
対象となる飲食事業形態
特定技能「外食業」は以下の形態の飲食店が対象です。
- 食堂・レストラン・料理店
- ハンバーガーショップ・ファストフード店
- ラーメン・うどん・そば等の麺類専門店
- 居酒屋・バー・キャバレーなど
- 喫茶店・カフェ
- デリバリー専門店・フードデリバリー
- 仕出し・弁当屋・テイクアウト専門店
食品産業特定技能協議会への加入(必須)
受け入れ開始後4か月以内に農林水産省ホームページから食品産業特定技能協議会への加入申請が必要です。期限内に加入しなかった場合、特定技能外国人の受け入れができなくなるため注意が必要です。チェーン企業の場合は本部が一括して加入手続きを行うことが一般的です。
受け入れ企業に求められる体制
- 直接雇用であること(特定技能外食業では派遣は不可)
- 日本人と同等以上の給与・労働条件の提供
- 特定技能1号外国人への義務的支援(10項目)の実施計画策定
- 支援計画の実施(自社または登録支援機関への委託)
- 2024年改正対応:キャリアアッププランの作成・交付・説明
本部一括採用の仕組みと雇用契約書の正しい作成方法
チェーン展開企業が特定技能外国人を効率的に活用するために最も有効な方法が「本部一括採用」です。ただし、実際の雇用契約書の作成には法令上の注意点があります。
本部一括採用の基本的な流れ
多店舗展開企業が本部で一括採用する場合の流れは以下の通りです。
- 本部人事部門が窓口となり、人材紹介会社・求人サイト等から候補者を募集・選考
- 本部が雇用主として雇用契約を締結
- 在留資格の申請手続きを本部が一括実施
- 配属先店舗を決定して就労開始
- 定期的な支援・面談を本部主導で実施
雇用契約書における就業場所の記載方法
複数店舗での勤務が想定される場合、雇用契約書(労働条件通知書)の就業場所欄には配属される可能性のあるすべての店舗を記載することが必要です。
「就業場所:〇〇区△△店(主たる就業場所)、その他当社が指定する事業所」
または
「就業場所:〇〇区△△店・□□市◇◇店・△△区◆◆店(配属先は会社が指定)」
主たる就業場所と副次的就業場所の考え方
入管法令上は「主たる就業場所」を明示し、他に配属の可能性がある店舗を列挙します。後から新たな店舗への異動が生じた場合、記載外の店舗は別途手続きが必要となるため、余裕を持った記載が現実的です。
在留資格申請書類への反映
在留資格の申請書類(特定技能雇用契約書、支援計画書)にも就業場所が記載されます。当初と異なる場所で就労させる場合は、「随時届出」が必要となるため、できる限り想定されるすべての就業場所を最初から記載しておくことがポイントです。
複数店舗間の配置転換ルールと届出手続き
チェーン店での運営では、閑散期の店舗から繁忙期の店舗への人員移動が日常的に発生します。特定技能外国人の店舗間異動には、入管への届出が必要な場合があります。
配置転換が届出「不要」のケース
当初の雇用契約書・在留資格申請書類に就業場所として記載されている店舗への異動は、原則として追加の届出は不要です。ただし、雇用条件(給与・労働時間など)に変更がある場合は別途対応が必要です。
配置転換が届出「必要」のケース
以下の場合は「随時届出」が必要です。届出は事由発生から14日以内に、特定技能所属機関の本店所在地を管轄する地方出入国在留管理局に提出します(オンライン・郵送・窓口持参が可)。
- 当初の申請書類に記載されていない新店舗への配置(=就業場所の変更)
- 給与・労働時間・担当業務など雇用条件の変更
- 支援計画の変更(担当者変更、実施方法変更など)
2025年4月改正:定期届出が年1回に変更
2025年4月1日施行の省令改正により、従来3ヶ月ごとだった定期届出が年1回へと変更されました。これにより多店舗展開企業の事務負担が大幅に軽減されましたが、随時届出(14日以内)の義務は引き続き存在するため、異動のたびに確認が必要です。
配置転換における外国人材への事前説明
多くの外国人材は異動や転勤に対してネガティブな印象を持つ場合があります。配置転換の可能性がある場合は採用選考の段階で明確に説明し、雇用契約書にも記載することで後のトラブルを防ぐことが重要です。また、転勤先の生活環境(住居・交通・生活インフラ)についての情報提供も支援の一環として行いましょう。
エリアマネージャーによる巡回支援体制の構築
多店舗展開企業では、各店舗の店長が特定技能外国人への支援を個別に担うと、支援の質がバラバラになるリスクがあります。エリアマネージャーが支援の核となる体制を構築することで、支援の均質化と本部一括管理が実現します。
エリアマネージャーの役割と支援の内容
エリアマネージャーが担当する外国人材支援の主な内容は以下の通りです。
- 定期面談:特定技能1号外国人との定期的な1on1(月1回程度)での悩み・不満の聞き取り
- 生活支援状況の確認:住居・日本語学習・社会手続きの進捗確認
- キャリアアッププランの進捗管理:スキル習得状況・目標達成度の確認と修正
- 店長へのフィードバック:各店舗の外国人材活用状況を本部に報告
- トラブル対応の窓口:外国人材からの相談・苦情を受け付ける一次窓口
本部との連携体制の設計
エリアマネージャーが一人で抱えすぎないよう、本部に「外国人材サポートチーム」を設置するのが理想的です。登録支援機関と連携しながら、以下の役割分担を明確にしましょう。
| 担当 | 主な役割 |
|---|---|
| 本部人事 | 採用・ビザ申請・届出・全体方針決定 |
| エリアマネージャー | 担当店舗の外国人材面談・キャリア管理・トラブル対応 |
| 店長 | 日常業務管理・OJT・シフト管理 |
| 登録支援機関 | 義務的支援の委託実施(行政手続き・日本語学習等) |
支援の委託と自社実施の選択
特定技能1号への義務的支援(10項目)は、登録支援機関に全部委託することが可能です。委託費用は月2〜4万円程度(1名あたり)が相場です。多店舗展開企業の場合、外国人材が多い場合は自社で支援担当者を置く「自社支援」のほうがコスト効率が高くなるケースもあります。
キャリアアッププラン作成・交付の義務と実務対応
2024年の入管法令告示改正により、外食業分野で特定技能外国人を受け入れる企業には「キャリアアッププランの作成・交付・説明」が義務付けられました。多店舗展開企業でも、この対応は各所属機関(法人単位)の義務であり、登録支援機関への委託で免れることはできません。
キャリアアッププランに記載すべき内容
法令に定められた記載要件は以下の通りです。
- 想定されるキャリアルート(例:一般スタッフ → サブリーダー → 店長補佐 → 2号移行)
- 各レベルの具体的な業務内容と担当範囲
- 習熟の目安となる在籍年数・経験
- レベルアップに必要な資格・検定・経験(2号移行要件を含む)
実施タイミングと注意点
チェーン企業向けのキャリアアッププラン設計
多店舗展開企業では、以下のような段階的なキャリアルートが設計しやすいです。
- 1年目:担当店舗での基礎業務習得(調理補助・接客・衛生管理)
- 2年目:複数店舗のローテーション経験・サブリーダー業務
- 3〜4年目:店長補佐として店舗運営の管理業務補助・日本語力向上(N3目標)
- 5年目:特定技能2号への移行申請(2号試験または管理業務3年以上の実績)
受入れコストと登録支援機関の活用
飲食チェーンが特定技能外国人を採用する際の費用感を把握しておくことは、経営判断において重要です。ここでは主要なコスト項目と相場をまとめます。
初期採用コスト
| 費用項目 | 相場 |
|---|---|
| 人材紹介会社手数料(国内採用) | 20〜50万円/名 |
| 人材紹介会社手数料(海外採用) | 30〜80万円/名 |
| ビザ申請費用(行政書士委託) | 5〜15万円/名 |
| 住居確保費用(初期) | 10〜30万円(敷金礼金含む) |
月次ランニングコスト
- 登録支援機関への委託費:月2〜4万円/名(義務的支援一式)
- 食品産業特定技能協議会会費:無料(2024年現在)
- 日本語学習支援費:月0.5〜2万円程度(オンライン教材・講師費用)
コスト削減のポイント
多店舗展開企業が本部で一括採用・一括管理を行うことで、以下のコスト削減が期待できます。
- 各店舗が個別に紹介会社を利用するより、本部一括契約で紹介料を削減
- 登録支援機関との一括契約で、1名あたりの委託費を低減
- 多言語マニュアル・研修動画の整備コストを全店で分担
- 自社支援担当者(JSMO)を設置することで、外国人材数が増えるほど1名あたりコストが低減
多店舗展開チェーンにおけるよくある質問
Q. フランチャイズ加盟店でも特定技能外国人を採用できますか?
はい、採用できます。フランチャイズ加盟店も独立した法人であれば、それぞれが受け入れ機関として特定技能外国人を採用することが可能です。ただし、本部FC(フランチャイズチェーン)と加盟店はそれぞれ別の所属機関となるため、加盟店をまたいだ配置転換はできません。
Q. 本部採用で就業場所を「全店舗」と記載することはできますか?
実務上は「主たる就業場所(〇〇店)、および当社が指定する事業所」とする記載が一般的です。店舗数が多い場合、全店を列挙することは現実的ではないため、このような表現が用いられます。ただし、入管の審査担当者によっては確認を求められることがあるため、行政書士に相談して適切な記載方法を確認することをお勧めします。
Q. 特定技能外国人が「辞めたい」と言った場合はどうすればよいですか?
まず、辞めたい理由を丁寧に聞き取ります。仕事内容・人間関係・生活環境の問題であれば、店舗変更(配置転換)や勤務条件の調整で解決できる場合があります。チェーン展開の強みを活かし、「この店でなく別の店舗へ異動する」という選択肢を提示できることは、離職防止の有力な手段です。
Q. 2026年以降の試験制度変更で何が変わりますか?
外食業の特定技能評価試験は2026年度からCBT方式(コンピュータベーステスト)に移行し、年間を通じて実施される予定です。従来の年3回・全国約13会場から、試験機会が大幅に増加します。採用候補者が試験を受けやすくなるため、採用のチャンスが広がります。
まとめ:チェーン展開企業が特定技能を最大活用するために
飲食チェーンが特定技能制度を最大限に活用するためのポイントを整理します。
- 本部採用・一括管理:採用・ビザ申請・支援計画を本部に集約してコスト効率を高める
- 雇用契約書に就業場所を網羅記載:配属可能性のある全店舗を最初から記載し、後の届出負担を軽減
- 配置転換の届出ルールを把握:記載外の店舗への異動は14日以内に随時届出が必要
- エリアマネージャーを支援の核に:定期面談・キャリア管理・トラブル対応を担う体制を設計
- キャリアアッププランを義務通り作成・交付:雇用契約締結前に書面で交付・説明を実施
- 特定技能2号への移行を見据えた育成:店長・エリア担当として長期活躍できる環境を整備
特定技能制度は正しく活用すれば、飲食チェーンの人手不足を計画的かつ持続的に解消できる制度です。制度の複雑さに不安を感じる場合は、特定技能申請を専門とする行政書士に相談することをお勧めします。MIRAI行政書士事務所では、飲食チェーン企業の本部一括採用サポートから各種届出対応まで、トータルでサポートしています。


