「登録支援機関に書類作成も含めて全部お願いしているけど、これって問題ないの?」
特定技能外国人の受入れにおいて、登録支援機関と行政書士はそれぞれ異なる役割を担っています。しかし、その業務範囲の境界線が曖昧なまま運用されてきたことで、2026年1月の行政書士法改正を機にコンプライアンス上の問題が顕在化しています。本記事では、登録支援機関と行政書士の役割の違いを図解で整理し、企業がどちらに何を依頼すべきかの判断基準を解説します。
- 登録支援機関の義務的支援10項目と行政書士の独占業務の違い
- 「取次」と「書類作成」の法的な違いと2026年改正の影響
- 企業が両者を上手に活用するための実務フローとチェックリスト
適切な専門家との連携体制を構築して、外国人材の受入れを安心して進めましょう。
登録支援機関とは|義務的支援10項目の役割を整理
登録支援機関とは、出入国在留管理庁に登録された法人または個人で、特定技能1号外国人の支援計画の全部または一部の実施を受入れ企業から委託される機関です。2026年3月時点で全国に約11,200件が登録されています。ただし、このうち実際に支援業務を行っているのは約2割程度で、残りの約8割は登録のみで実質的な活動を行っていないとされています。登録支援機関の登録要件は、過去2年以内の中長期在留者受入れ実績、多言語対応体制の整備、支援責任者・支援担当者の選任などです。その主な業務は、外国人の日本での生活と就労をサポートする「義務的支援10項目」の実施です。
義務的支援10項目の概要
| 支援項目 | 主な内容 |
|---|---|
| 1. 事前ガイダンス | 労働条件・活動内容・入国手続き等を母国語で説明(1〜3時間以上) |
| 2. 出入国時の送迎 | 空港〜事業所・住居間の送迎、帰国時は保安検査場入場まで同行 |
| 3. 住居確保・生活契約支援 | 物件探し・契約同行・連帯保証人の手配、銀行口座開設等の補助 |
| 4. 生活オリエンテーション | 日本のルール・公共交通・医療機関等を母国語で案内(8時間以上) |
| 5. 公的手続きの同行 | 住民登録・社会保険・税金手続きへの同行と書類記載補助 |
| 6. 日本語学習支援 | 日本語教室・教材情報の提供、入学手続きの補助 |
| 7. 相談・苦情対応 | 職場・生活上の相談に母国語で対応、関係機関への取次ぎ |
| 8. 日本人との交流促進 | 地域行事・イベント情報の案内、自治会加入の案内 |
| 9. 転職支援 | 企業都合の離職時に転職先探し・推薦状作成・有給休暇の付与 |
| 10. 定期面談・行政機関通報 | 3か月に1回以上の面談実施、法令違反時の関係機関への通報 |
2025年4月の制度変更ポイント
2025年4月施行の制度変更により、定期届出が四半期ごと(年4回)から年1回に変更されました。対象期間は4月1日〜3月31日で、翌年の4月1日〜5月31日に届出を行います。最初の年次届出は2026年4〜5月です。ただし、3か月に1回以上の定期面談義務は変更なしですので注意してください。また、外国人本人の同意がある場合はオンライン(テレビ電話等)での面談も認められるようになりました。
行政書士の独占業務とは|外国人雇用分野での役割
行政書士は行政書士法に基づく国家資格者で、官公署に提出する書類の作成を独占業務としています。外国人雇用の分野では、在留資格に関する申請書類の作成と申請の取次が主な業務です。
行政書士法が定める3つの独占業務
- 官公署に提出する書類の作成:在留資格申請書、建設業許可申請書、補助金申請書など
- 権利義務に関する書類の作成:各種契約書、遺産分割協議書、示談書など
- 事実証明に関する書類の作成:議事録、実地調査報告書、会計帳簿など
これらの書類を「他人の依頼を受け報酬を得て」作成できるのは、行政書士と弁護士のみです。無資格者が有償で行えば、1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金に処せられます。なお、企業が自社の従業員のために自社で書類を作成すること自体は行政書士法上の問題はありません。ただし、グループ会社間での書類作成の請負は「他人の依頼」に該当する可能性があるため注意が必要です。
申請取次行政書士の制度
行政書士のなかでも、出入国在留管理庁に届出を行い承認された「申請取次行政書士」は、外国人本人に代わって入管窓口に申請書類を提出できます。届出済証明書(通称「ピンクカード」)の有効期間は3年で、更新には再度研修の受講が必要です。申請取次行政書士が取り次げる主な申請は以下の通りです。
- 在留資格認定証明書交付申請(外国人の呼び寄せ)
- 在留資格変更許可申請(留学→就労など)
- 在留期間更新許可申請(在留期間の延長)
- 永住許可申請
- 資格外活動許可申請(留学生のアルバイト許可等)
- 就労資格証明書交付申請(転職時の就労可能証明)
特定行政書士の業務拡大
2026年1月の行政書士法改正では、特定行政書士(法定研修を修了した行政書士)の不服申立て代理の範囲も拡大されました。改正前は「自分が作成した書類」に係る不許可処分のみ代理可能でしたが、改正後は「行政書士が作成することができる書類」一般に係る不許可処分の代理が可能になりました。つまり、他の事務所が扱った案件や本人申請で不許可になった場合でも、特定行政書士が審査請求を代理できるようになっています。
「取次」と「書類作成」の決定的な違い|法的根拠を比較
登録支援機関と行政書士の役割を理解するうえで最も重要なのが、「取次」と「書類作成」の法的な違いです。この2つは全く異なる行為であり、混同するとコンプライアンス上の重大なリスクを招きます。
取次と書類作成の法的根拠の違い
| 比較項目 | 申請取次(提出代行) | 書類作成(独占業務) |
|---|---|---|
| 行為の性質 | 事実行為(書類の物理的な持参・提出) | 法律行為(書類の内容を判断・作成) |
| 法的根拠 | 入管法施行規則に基づく取次制度 | 行政書士法第1条の2 |
| 実施可能な者 | 行政書士・弁護士・登録支援機関職員(承認済み)・受入企業職員(承認済み) | 行政書士・弁護士のみ |
| 登録支援機関の範囲 | 特定技能1号に関する申請のみ | 実施不可(違法) |
2026年行政書士法改正で何が変わったか
2026年1月1日施行の改正行政書士法では、第19条第1項に「いかなる名目によるかを問わず報酬を得て」という文言が追加されました。これにより、以下のような従来グレーゾーンとされていた行為が明確に違法となっています。
- 「支援委託費」に書類作成費を内包する料金体系
- 「コンサルティング料」「サポート料」名目での書類作成代行
- 書類作成を「無償」とし、別の名目で実質的な対価を受領する行為
- 月額管理費にパッケージ化した書類作成サービス
さらに、第23条の3に両罰規定が整備され、違反した個人だけでなく所属法人にも最大100万円の罰金が科されるようになりました。
注意: 日本行政書士会連合会は2019年3月の会長声明で、登録支援機関が報酬を得て入管提出書類を作成することは行政書士法違反であると明確に指摘していました。2026年の法改正で、この見解が条文上も明文化された形です。
登録支援機関に認められる業務と禁止される業務
登録支援機関の業務範囲を正しく理解するために、具体的に何が適法で何が違法かを整理しましょう。
適法な業務と違法な業務の一覧
| 業務内容 | 適法/違法 |
|---|---|
| 義務的支援10項目の実施 | 適法 |
| 完成した申請書類を入管窓口に提出(取次) | 適法(取次承認がある場合) |
| 制度説明・必要書類の案内・情報収集の補助 | 適法 |
| 市区町村役所での書類記載の補助(公的手続き同行) | 適法 |
| 在留資格申請書類の作成 | 違法 |
| 支援計画書など官公署提出書類の作成 | 違法 |
| 申請書類の加除訂正(内容判断を伴う修正) | 違法 |
| 定期届出・随時届出書類の作成 | 違法 |
登録支援機関が行政書士法に違反した場合のリスク
登録支援機関が無資格で書類作成を行った場合、以下のリスクが生じます。
- 刑事罰:個人に1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金、法人にも100万円以下の罰金
- 登録取消:入管法に基づく登録支援機関の登録取消事由に該当する可能性
- 5年間の再登録不可:取消後5年間は登録支援機関として再登録できない
- 受入企業への波及:企業も両罰規定の適用対象となる可能性がある
実際に2020年8月には、名古屋市の人材派遣会社グランウェイ社が、本人署名欄への無断代筆や虚偽書類を複数回入管に提出したとして、特定技能制度における初の登録取消処分を受けています。この事例は、登録支援機関による書類作成が招くリスクの深刻さを示す教訓的なケースです。
2027年4月の要件厳格化にも注意
2027年4月には登録支援機関の要件がさらに厳格化される予定です。支援責任者の常勤化・講習修了の義務化、支援担当者1人あたりの担当上限(50人以下の外国人、10以下の所属機関)などが導入されます。中小規模の登録支援機関にとっては体制整備のハードルが上がるため、早期の準備が求められています。
企業がどちらに何を依頼すべきか|判断フローと費用比較
企業が登録支援機関と行政書士をどう使い分けるべきか、3つの連携モデルと費用相場を紹介します。2026年の行政書士法改正施行後わずか1か月で、登録支援機関からの「書類作成の外注先探し」の相談や、企業からの「体制見直し」の相談が急増したと報告されています。まさに今、適切な連携体制の構築が求められているタイミングです。
3つの連携モデル
モデル1:三者分離型(最も推奨)
企業が行政書士と登録支援機関にそれぞれ直接契約し、書類作成と支援業務を完全に分離するモデルです。コンプライアンスリスクが最も低く、費用の透明性も高い方法です。
- 企業 → 行政書士:書類作成の業務委託契約
- 企業 → 登録支援機関:義務的支援の委託契約
- 契約書に「支援委託費に書類作成費を含まない」旨を明記
モデル2:行政書士兼登録支援機関型
行政書士法人が登録支援機関としても登録しているケースです。窓口が一本化されるため企業にとっては利便性が高い反面、請求書・契約書上で「行政書士報酬」と「支援委託料」を明確に分離する必要があります。
モデル3:自社支援+行政書士型
企業が自社で義務的支援10項目を実施し、書類作成のみ行政書士に委託するモデルです。月額支援委託料(月2〜3万円/人)が不要となりますが、自社支援の要件(過去2年以内の中長期在留者受入れ実績、多言語対応体制など)を満たす必要があります。
費用相場の比較
| 費用項目 | 相場 |
|---|---|
| 登録支援機関への月額支援委託料 | 2万〜3万円/人/月(平均約28,000円) |
| 行政書士への在留資格認定証明書交付申請費用 | 10万〜16.5万円/1名 |
| 行政書士への在留期間更新許可申請費用 | 5万〜10万円/1名 |
| 行政書士への在留資格変更許可申請費用 | 9万〜16.5万円/1名 |
| 入管への手数料(更新・変更時) | 窓口6,000円/オンライン5,500円 |
ポイント: 費用を比較する際は、「支援委託費に書類作成費が含まれていないか」を必ず確認してください。「書類作成込みで月額3万円」という料金体系は、2026年の行政書士法改正後は明確に違法です。登録支援機関への支援委託費と行政書士への書類作成報酬は、別々の契約・別々の請求書で管理することが鉄則です。
適切な登録支援機関の選び方|7つのチェックポイント
全国に約11,200件ある登録支援機関のうち、実際に支援業務を行っているのは約2割程度とされています。信頼できる登録支援機関を選ぶために、以下の7つのポイントを確認しましょう。
チェック1:登録の有効性と行政処分歴
出入国在留管理庁のウェブサイトで公開されている登録支援機関登録簿で、正式に登録されていること、登録の有効期限(5年間)が切れていないことを確認しましょう。過去に登録取消・改善命令を受けた履歴がないかもチェックすべきポイントです。
チェック2:支援実績の確認
実際の支援人数、同業種での受入れ実績、定着率のデータを開示しているかを確認しましょう。支援人数100名超の機関は全体の1%未満であり、実績のない機関にはリスクが伴います。具体的には、過去1年間の支援実績報告書の提出を求め、実際に何名の特定技能外国人を支援したか、定着率はどの程度かを確認することが有効です。
チェック3:行政書士との連携体制
書類作成は行政書士の独占業務ですから、提携する行政書士の有無と連携体制は重要なチェックポイントです。「書類作成も全部やります」と宣伝している登録支援機関は、行政書士法違反のリスクがあるため避けるべきです。
チェック4:多言語対応力
受入れ予定の外国人の母国語に対応できるかを確認しましょう。義務的支援の多くは母国語での実施が原則です。通訳者の確保体制(常勤か外部委託か)も確認すべきポイントです。ベトナム語・インドネシア語・ミャンマー語など主要送出国の言語に対応できるかは特に重要です。
チェック5:費用の透明性
月額費用・初期費用・追加費用の体系が明確に提示されているかを確認してください。支援委託費に書類作成費用が含まれていないことを契約書と請求書の両方で確認することが極めて重要です。
チェック6:緊急時の対応体制
24時間対応の緊急連絡体制が整備されているか、失踪・離職時の対応フローが確立されているかを確認しましょう。外国人労働者のトラブルは営業時間外に発生することも少なくありません。
チェック7:契約内容の適法性
契約書の業務範囲に「書類作成」が含まれていないか、途中解約の条件が明確か、再委託に関する条件が明示されているかなどを確認しましょう。不安がある場合は、行政書士や弁護士に契約書のレビューを依頼することをお勧めします。
まとめ|登録支援機関と行政書士の適切な連携で安心の外国人雇用を
登録支援機関と行政書士は、それぞれ異なる法的根拠に基づく専門家です。両者の役割を正しく理解し、適切に連携させることが、コンプライアンスを確保しながら外国人材を受入れるための鍵となります。
役割の違いのポイント再確認
- 登録支援機関:義務的支援10項目の実施と申請の「取次」(書類の提出代行)が主な業務
- 行政書士:在留資格申請書類の「作成」(独占業務)と申請の取次・法的助言が主な業務
- 「取次」は書類の物理的な提出行為、「作成」は書類の内容を判断して作り上げる行為で、全く異なる
- 2026年行政書士法改正で「いかなる名目でも」有償の書類作成は違法と明文化、両罰規定も整備
企業が今すぐ確認すべきこと
- 登録支援機関との契約書に「書類作成」が業務範囲に含まれていないか確認
- 支援委託費と行政書士への書類作成報酬が明確に分離されているか確認
- 行政書士との直接契約を締結し、書類作成は専門家に一任する体制を構築
- 社内の関係部署に改正行政書士法の内容を周知し、コンプライアンス体制を整備
登録支援機関と行政書士の適切な連携は、外国人材の定着率向上にもつながります。それぞれの専門性を活かした支援体制を構築し、安心して外国人材の受入れを進めましょう。ビザ申請や在留資格に関するお悩みは、ぜひ当事務所にご相談ください。特定技能制度は毎年のように制度変更が行われるため、最新の法令情報を常にアップデートし、必要に応じて専門家に相談することが安定した外国人雇用の実現につながります。


