「うちの登録支援機関、知らないうちに取消事由に該当していないだろうか…」
特定技能制度における登録支援機関の登録取消は、2020年8月の初事例以来、制度開始約4年間で累計14機関に達しています。取消理由は虚偽書類の提出や支援業務の不履行など多岐にわたり、取消後は5年間の再登録禁止という厳しい制裁が科されます。本記事では、過去の取消事例を詳細に分析し、コンプライアンス違反を未然に防ぐための自主点検方法と実務対策を解説します。
- 初の登録取消事例(グランウェイ社)と累計14件の取消理由の分析
- 入管法に基づく登録取消事由5類型と2025年改正で追加された不正行為
- 自主点検チェックリストと2027年の要件厳格化に向けた準備事項
過去の事例から教訓を学び、自社の支援体制を見直す機会としてください。
初の登録取消事例|グランウェイ株式会社のケース
2020年8月19日、名古屋市の人材派遣会社グランウェイ株式会社が、特定技能制度における初の登録取消処分を受けました。この事例は、制度運用の厳格さを象徴する重要なケースです。
取消に至った経緯と違反内容
グランウェイ社は2019年5月に登録支援機関として登録されましたが、在留資格「技術・人文知識・国際業務」で通訳として働く外国人の本人署名欄を会社が無断で代筆し、虚偽の書類を複数回にわたり出入国在留管理庁に提出していたことが発覚しました。取消の法的根拠は入管法第19条の32第4号「不正の手段により登録を受けた場合」です。
関連企業への波及と教訓
取消処分の影響はグランウェイ社単体にとどまりませんでした。関連会社である金沢市の「フリースタイル」と東京の「グランウェイジャパン」の2社も業務廃止届を提出し、グループ全体で登録支援業務から撤退する結果となりました。この事例から得られる最大の教訓は、書類の真正性に対する入管庁の厳格な姿勢です。外国人本人の署名を代筆する行為は、たとえ事務効率化を目的としたものであっても、虚偽書類の提出として厳しく処分されます。
累計取消14機関の内訳分析
制度開始(2019年4月)から約4年間の登録取消14機関の取消理由内訳は以下の通りです。
| 取消理由 | 件数 |
|---|---|
| 技能実習制度における不正行為 | 4件 |
| 出入国・労働関係法令による罰金刑 | 4件 |
| 保証金契約・支援業務未実施 | 2件 |
| その他(虚偽書類・不正手段等) | 4件 |
技能実習制度での不正行為が登録取消事由になる点は見落としがちです。技能実習の監理団体として不正行為認定を受けた法人が登録支援機関としても登録していた場合、自動的に欠格事由に該当します。
登録取消事由の5類型|入管法第19条の32の全体像
入管法第19条の32は、登録支援機関の登録取消事由を5つの類型で定めています。各類型の内容と該当する具体的行為を確認しましょう。
第1号:登録拒否事由に該当するに至った場合
登録後に入管法第19条の26第1項各号の登録拒否事由(欠格事由)に該当した場合です。登録拒否事由は14項目あり、主なものは以下の通りです。
- 禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終えた日から5年を経過していない
- 出入国又は労働に関する法令の規定により罰金の刑に処せられ、5年を経過していない
- 暴力団員又は暴力団員でなくなった日から5年を経過していない
- 過去1年間に外国人の行方不明者を発生させた(登録支援機関の責めに帰すべき事由による)
- 外国人に支援費用を直接的又は間接的に負担させている
- 支援委託契約の費用額と内訳を明示していない
- 外国人が理解できる言語での情報提供・相談対応体制がない
- 支援状況の帳簿を適正に作成・保存していない
- 精神の機能の障害により支援業務を適正に行えない
特に注意すべきは、技能実習制度の監理団体として不正行為認定を受けた場合、同時に登録支援機関の欠格事由にも該当するという点です。両制度にまたがって事業を行う法人は、一方の違反がもう一方にも波及するリスクを認識しておく必要があります。また、役員個人が欠格事由に該当した場合も法人全体が影響を受けるため、役員の変更時には必ず欠格事由の該否を確認してください。
第2号:届出義務の不履行
定期届出・随時届出を怠った場合、または虚偽の届出をした場合に該当します。2025年4月の制度改正で定期届出が年1回に変更されましたが、届出の重要性は変わりません。届出を怠った場合は30万円以下の罰金に加え、登録取消の対象となります。随時届出は事由発生日から14日以内の提出が義務付けられており、登録事項の変更(事務所所在地・役員変更等)、支援業務の休止・廃止、支援委託契約の変更・終了、支援実施が困難になった場合(2025年4月追加)が対象です。
第3号:支援業務の不履行
委託された支援計画に基づく支援業務を行わなかった場合です。義務的支援10項目(事前ガイダンス、出入国送迎、住居確保支援、生活オリエンテーション、公的手続同行、日本語学習機会提供、相談・苦情対応、日本人との交流促進、転職支援、定期面談)のうち、いずれかを適切に実施しなければ該当する可能性があります。実地調査で特に指摘されやすいのは、定期面談の未実施・形骸化と相談記録の未作成です。支援計画に記載した任意的支援を実施しなかった場合も、支援計画の不履行として同様に取消対象になり得るため注意が必要です。
第4号:不正の手段による登録
虚偽書類の提出等により不正に登録を受けた場合です。グランウェイ社の事例がこれに該当します。申請時だけでなく、登録更新時の虚偽記載も同様に処分対象となります。なお、虚偽申請による在留資格取得を幇助した場合は、在留資格等不正取得罪(3年以下の懲役又は300万円以下の罰金、併科あり)に問われる可能性もあり、登録取消にとどまらない刑事責任リスクがあります。
第5号:報告・検査への非協力
出入国在留管理庁から求められた報告・資料の提出に応じなかった場合、または虚偽の報告をした場合です。立入検査への非協力も含まれます。入管庁は、通報・定期面談報告・届出内容から不審点を把握し、必要に応じて報告徴収や立入検査を実施します。検査では支援計画に基づく支援の実施状況、帳簿書類の作成・保存状況、届出の履行状況、外国人本人への面談による実態確認が行われます。調査に対しては速やかかつ誠実に対応することが不可欠であり、虚偽報告や資料の隠蔽は即座に取消事由に該当します。
2025年改正で追加された不正行為類型と罰則強化
2025年4月の制度改正では、不正行為の範囲が拡大され、新たな類型が追加されました。登録支援機関として見逃せない変更点を確認します。
新設された「外国人の意思表示を妨げる行為」
2025年4月から、以下の行為が新たに不正行為として認定されるようになりました。
- 労働条件への不満表示を困難にする行為
- 転職・退職を不当に制限する行為
- 相談窓口への報告を阻害する行為
- 入管法・労働法違反の事実を隠蔽する行為
- 支援基準への不適合を隠蔽する行為
- 必要な記録の作成を怠る行為
これらの行為が発覚した場合、登録支援機関の登録取消の対象となります。外国人が自由に意思表示できる環境を確保することが、従来以上に厳格に求められるようになっています。具体的には、定期面談の際に本人と監督者を別々に面談し、外国人が上司の目を気にせず自由に発言できる環境を整えること、相談窓口を外国人が理解できる言語で運営し、相談内容に応じた適切な対応を行うことが重要です。
支援業務の再委託禁止と費用負担ルール
登録支援機関は、受入企業から委託された支援業務を第三者に再委託することが禁止されています(入管法第19条の30第1項)。通訳の手配、タクシー等の交通手段の手配、住居の仲介業者の利用など個別の補助業務は許容されますが、支援計画の実施そのものを他社に丸投げすることは認められません。なお、受入企業が支援の一部を自社で実施し、残りを登録支援機関に委託する「一部委託」は認められていますが、その場合でも登録支援機関が受託した部分を更に再委託することは不可です。
また、義務的支援にかかる費用を外国人に負担させることは明確な法令違反であり、給与からの天引きや支援費用の請求は登録取消事由に直結します。支援委託費用の相場は月額2〜4万円/人(出入国在留管理庁の調査では平均約28,386円/月)であり、この費用は全額受入企業が負担しなければなりません。2025年9月改正では、住居の敷金・礼金・仲介料・更新料を外国人に負担させることも不可と明確化されました。
自主点検チェックリスト|取消リスクを未然に防ぐ
登録取消を防ぐためには、定期的な自主点検が不可欠です。以下のチェックリストで自社の支援体制を総点検しましょう。
帳簿書類・記録管理の点検
- 事前ガイダンス確認書は本人署名を取得し、雇用契約終了日から1年以上保存しているか
- 生活オリエンテーション確認書は作成・保存されているか
- 相談・苦情の対応記録は漏れなく作成し、1年以上保管しているか
- 定期面談報告書(参考様式第5-5号・第5-6号)は3か月に1回以上作成しているか
- オンライン面談を実施した場合、映像を1年以上保存しているか
- 支援状況に関する帳簿を適正に作成・保存しているか
届出・報告義務の点検
- 年次定期届出(4月〜5月提出)を期限内に提出しているか
- 随時届出が必要な事由(雇用契約変更・支援計画変更・支援困難時等)を見逃していないか
- 登録事項の変更届出(事務所所在地・役員変更等)を14日以内に提出しているか
- 1か月以上就労していない外国人がいる場合の届出を行っているか
支援実施体制の点検
- 義務的支援10項目を全て適切に実施しているか
- 定期面談は本人と監督者を別々に実施しているか
- 外国人が理解できる言語での相談体制を確保しているか
- 支援費用を外国人に負担させていないか(給与天引き等を含む)
- 支援業務を第三者に再委託していないか
コンプライアンス体制構築の実務ポイント
自主点検の結果を踏まえ、恒常的なコンプライアンス体制を構築するための実務ポイントを解説します。
支援責任者・支援担当者の役割と責任の明確化
支援責任者は支援業務全体を統括し、支援担当者への指導・監督を行う立場です。支援責任者には中立性要件があり、過去5年間に支援を行う受入企業の役員又は職員でないこと、受入企業の役員の配偶者・2親等以内の親族等でないことが求められます。役割と責任の範囲を社内規程で明文化し、誰が何の支援に責任を持つかを明確にしましょう。特に複数の支援担当者がいる場合は、担当する外国人・受入企業の分担を明確にし、支援の漏れが発生しない体制を整えることが重要です。支援担当者は支援計画に沿った具体的な支援の実施、定期面談の実施・記録、相談対応等を担当します。
内部チェック体制の整備
- 月次チェック:面談スケジュール・届出期限の管理、相談記録の確認
- 四半期チェック:支援実施状況の全件レビュー、帳簿書類の保存状況確認
- 年次チェック:登録事項の変更確認、支援計画の見直し、年次定期届出の準備
チェック結果は記録として残し、問題が発見された場合は速やかに是正措置を講じます。特に帳簿書類の保存義務は入管法第19条の28で定められており、支援対象の外国人が締結した特定技能雇用契約が終了した日から1年間の保存が必要です。保存すべき帳簿には、支援計画の内容、外国人の氏名・在留カード番号、支援の実施日時・場所、支援責任者・担当者の氏名、相談・苦情の対応記録が含まれます。行政書士等の外部専門家による定期的な監査を受けることも、客観的な体制評価として有効です。
2027年の要件厳格化に向けた準備|登録支援機関の生き残り戦略
育成就労制度の施行に合わせて2027年4月から登録支援機関の要件が大幅に厳格化されます。名義貸し型や実態のない機関の淘汰が確実視されており、今から準備を進めることが不可欠です。
主な厳格化ポイント
| 項目 | 現行 | 2027年4月以降 |
|---|---|---|
| 支援責任者 | 非常勤可 | 常勤必須・各事務所1名以上 |
| 講習修了要件 | なし | 過去3年以内に法務大臣告示の講習修了 |
| 支援担当者 | 人数制限なし | 1人あたり外国人50人以下・受入機関10以下 |
| 実績公表 | なし | 実績・費用をインターネットで公表義務 |
今から取り組むべき3つの準備
- 人材確保と常勤化計画:支援責任者・支援担当者の常勤化は人件費の大幅増加を意味します。事業計画を見直し、必要な人員確保のスケジュールを策定してください
- 講習受講の情報収集:法務大臣が告示で定める講習の詳細が公表され次第、速やかに受講スケジュールを組む必要があります。最新情報のキャッチアップ体制を整えましょう
- 支援品質の見える化:実績・費用の公表義務に備え、支援業務の実施記録・委託費用の内訳を整理し、公表に耐えうる形で管理する仕組みを構築してください
登録支援機関数は2026年3月時点で11,208件ですが、約8割は実質的に支援業務を行っていないとの指摘もあります。2027年の要件厳格化により、これらの機関の大量淘汰が予測されています。逆に言えば、適切な支援体制を整えた機関にとっては、競合が減少しビジネスチャンスが拡大する転換期でもあります。なお、育成就労制度で新設される監理支援機関と登録支援機関は別制度ですが、同一法人が両方の許可・登録を受ける場合、それぞれの要件を満たす必要があるため、経営資源の配分を早期に検討しておくことが肝要です。
まとめ|登録取消を防ぐために今日からできること
登録支援機関の登録取消は、5年間の再登録禁止という極めて重い制裁です。過去の取消事例から得られる教訓を自社の運営に活かし、以下のアクションを今日から実行してください。
最優先で確認すべき3つのポイント
- 書類の真正性:全ての書類で外国人本人の署名・確認を確実に取得し、代筆は絶対に行わない。電子署名やタブレット端末での署名取得の活用も積極的に検討する
- 届出の完全履行:年次定期届出・随時届出の期限をカレンダーに登録し、提出漏れを防ぐ仕組みを構築する
- 支援記録の完備:面談記録・相談記録・各種確認書を漏れなく作成・保管し、入管庁の閲覧要求にいつでも対応できる状態を維持する
専門家の活用を検討する
コンプライアンス体制の構築は自社だけでは客観性に欠ける場合があります。入管法令の解釈や実務上のグレーゾーンは多く、「知らなかった」では済まされない場面が少なくありません。行政書士等の外部専門家による定期的な監査や、制度改正に関する継続的な情報提供を受けることで、リスクを大幅に低減できます。登録支援機関の運営やコンプライアンス体制の整備でお困りの際は、ぜひ当事務所にご相談ください。特定技能制度に精通した行政書士が、適正な支援体制の構築を全力でサポートいたします。


