「登録支援機関に毎月2〜3万円払い続けるのと、自社で支援体制を整えるのと、結局どっちが得なのか…」
特定技能外国人の義務的支援を自社で実施するか、登録支援機関に委託するかは、企業にとって年間数百万円の差が生じる重要な経営判断です。出入国在留管理庁の調査では、登録支援機関への委託費用は平均約28,386円/月/人。10人の外国人を雇用すれば年間約340万円の支出になります。本記事では、5人・10人・20人規模の年間コストシミュレーションを基に、自社支援と委託のどちらが自社に最適かを判断するための材料を提供します。
- 自社支援の要件(過去2年の受入れ実績・中立性要件等)と費用内訳
- 登録支援機関の委託費用相場と価格帯別割合のデータ分析
- 5人・10人・20人規模の年間コスト比較シミュレーション表
2027年の要件厳格化で委託費の値上げが予測される今、自社支援への移行を検討するベストなタイミングです。
自社支援を行うための4つの要件
特定技能外国人の支援を自社で行う場合、登録支援機関への委託は不要ですが、以下の要件を全て満たす必要があります。要件を満たせなければ登録支援機関への委託が必須となります。
要件1:過去2年間の中長期在留者の受入れ実績
過去2年間に就労系在留資格(技能実習、特定技能、技術・人文知識・国際業務等)をもって在留する中長期在留者の受入れ又は管理を適正に行った実績が必要です。なお、身分系在留資格(永住者、日本人の配偶者等)は対象外です。初めて外国人労働者を雇用する企業はこの要件を満たせないため、最初は登録支援機関への委託が必須となります。ただし、技能実習生の受入れ実績がある企業であれば、特定技能外国人の受入れが初めてでもこの要件を満たせます。過去2年間に報酬を得る目的で業として外国人に関する相談業務に従事した経験を有する者がいる場合も、要件を満たす選択肢の一つです。
要件2:支援責任者・支援担当者の選任と中立性
支援責任者と支援担当者をそれぞれ1名以上選任する必要があります(兼任可)。重要なのは中立性要件で、支援担当者は特定技能外国人の直接の上司であってはなりません。人事部・総務部など外国人を直接監督しない部署の職員が担当することが求められます。社長の親族が担当する場合も中立性が確保できないとされるため注意が必要です。支援責任者は支援業務全体の統括を行い、支援担当者は個々の外国人への具体的な支援を実施する役割分担となっています。
要件3:外国語対応体制の整備
外国人が十分に理解できる言語(原則として母国語)で面談・相談対応ができる体制を常時確保している必要があります。常勤の通訳は不要で、アルバイト・リモート通訳サービス・外部委託でも要件を満たせます。ベトナム語やインドネシア語など対応言語が限られるケースでは、オンライン通訳サービスの活用が現実的な選択肢です。なお、定期面談(3か月に1回以上)では、外国人と直接対面またはテレビ電話で実施する必要があり、メールや書面のみでは要件を満たしません。
要件4:支援記録の作成・保管体制
事前ガイダンス確認書、定期面談記録、相談・苦情対応記録等を適切に作成・保管できる体制が必要です。雇用契約終了日から1年間の保存義務があります。紙・電子データのいずれでも可能ですが、入管庁の閲覧要求に速やかに対応できる状態を維持してください。クラウド型の支援管理システム(月額数千円〜)を活用すれば、記録の作成・保管を効率化できます。特に定期面談報告書(参考様式第5-5号・第5-6号)は3か月に1回以上の作成が必要であり、管理が煩雑になりやすいため、システム化を検討する価値があります。
自社支援にかかる費用の内訳
自社支援の最大のメリットはコスト削減ですが、「無料」ではありません。義務的支援10項目の実施にはそれぞれ費用が伴います。以下、主要な費用項目とその相場を確認しましょう。
支援担当者の人件費
| パターン | 月額コスト | 年間コスト |
|---|---|---|
| 専任スタッフ(正社員) | 25万〜30万円 | 300万〜360万円 |
| 兼任スタッフ(総務・人事が兼務) | 10万〜15万円(追加分) | 120万〜180万円 |
多くの企業では総務・人事の担当者が兼任しており、専任スタッフを別途雇用するケースは少数です。5〜10人規模であれば兼任で対応可能ですが、20人を超える場合は専任スタッフの配置を検討する必要があります。なお、2027年4月の制度改正後は、登録支援機関の支援担当者に常勤要件と人数上限(1人あたり50人以下)が課されますが、自社支援の場合の人員要件にはこの制限は適用されません。ただし、実質的に支援の質を確保するためには、1人の担当者が対応できる外国人数には限界があることを認識しておく必要があります。
行政書士費用と通訳・翻訳費用
自社支援の場合でも、在留資格の申請・更新は行政書士に依頼するケースが一般的です。在留資格認定・変更申請は1人あたり10万〜20万円、在留期間更新は5万〜15万円が相場です。通訳費用は、フリーランス通訳が半日2万〜5万円、文書翻訳が1文書あたり2,000円〜1万円です。オンライン通訳サービスを月額契約すれば、月数千円〜数万円で対応できる場合もあります。社内にバイリンガルスタッフがいれば通訳費用を大幅に削減できますが、その場合でも中立性要件(外国人の直接の上司でないこと)に注意が必要です。生活オリエンテーション用の多言語資料(就業規則・社内ルール等の翻訳)は初期費用として10万〜30万円程度が見込まれますが、一度作成すれば以降の外国人受入れ時に再利用できるため、長期的にはコスト効率が高くなります。
登録支援機関の委託費用と価格帯データ
登録支援機関に委託する場合の費用構造を、出入国在留管理庁の調査データを基に解説します。
月額委託費の価格帯別割合
| 月額費用帯(1人あたり) | 割合 |
|---|---|
| 10,000円以下 | 7.3% |
| 10,001円〜15,000円 | 9.5% |
| 15,001円〜20,000円 | 25.3% |
| 20,001円〜25,000円 | 26.2%(最多) |
| 25,001円〜30,000円 | 20.3% |
| 30,000円超 | 11.5% |
全体の71.8%が月額15,000円〜30,000円の範囲に集中しています。委託費に含まれるサービスの範囲は機関によって異なり、通訳費用・行政書士費用が別途請求される場合もあるため、契約前に費用の内訳を確認することが重要です。入社時の初期費用(事前ガイダンス・生活オリエンテーション・住宅確保支援等)として別途10万〜20万円が発生するケースもあります。また、義務的支援の質が低い場合は外国人の離職リスクが高まるため、料金だけでなく支援実績や対応言語数も選定の重要な判断材料です。なお、2027年4月以降は登録支援機関の要件厳格化(常勤職員配置義務・講習修了要件等)により人件費が増加するため、委託費の値上げが見込まれています。月額3万〜5万円帯への移行が予測されており、現在の相場感で長期的なコスト計算をしないよう注意が必要です。
規模別・年間コスト比較シミュレーション
実際の費用感を掴むため、5人・10人・20人規模での年間コストを比較シミュレーションします。委託費は月額25,000円/人(中央値付近)で算出しています。
シミュレーションの前提条件
本シミュレーションでは、登録支援機関の委託費を月額25,000円/人(中央値付近)、自社支援の兼任担当者追加人件費を月額12万円、通訳費を外国人1人あたり月6,000円〜8,000円、行政書士の更新申請費を年10万円/人と設定しています。実際の費用は企業の所在地・外国人の国籍(言語)・支援内容の範囲により変動しますので、あくまで参考目安としてお考えください。
5人規模:委託が有利
| 費目 | 委託 | 自社支援 |
|---|---|---|
| 委託費 / 担当者人件費 | 150万円 | 144万円 |
| 通訳費用 | 含む | 36万円 |
| 行政書士費(更新等) | 別途50万円 | 50万円 |
| 年間合計 | 約200万円 | 約230万円 |
5人規模では委託の方が約30万円安くなります。自社支援の立ち上げコスト(多言語資料の作成、管理システム導入、担当者の育成期間等)を考えると、少人数の段階では委託が合理的です。ただし、将来的に受入れ人数の増加を計画している場合は、この段階から支援ノウハウの蓄積を始めておくことも重要な視点です。
10人規模:コスト分岐点
委託の場合は年間約350万円(月額25,000円×10人×12ヶ月+行政書士費100万円)、自社支援は約304万円(兼任担当者144万円+通訳費60万円+行政書士費100万円)となり、自社支援が約46万円有利になり始めます。10人前後がコスト分岐点であり、この規模を境に自社支援への移行を具体的に検討する価値が出てきます。ただし、自社支援の立ち上げにはノウハウの蓄積期間が必要なため、将来的に10人以上の受入れを計画している場合は、少人数の段階からハイブリッド型で準備を始めることをお勧めします。自社支援に移行する際は支援計画の変更届出(14日以内)が必要となるため、移行のタイミングは在留期間更新の時期に合わせると手続きがスムーズです。
20人規模:自社支援が大幅に有利
委託の場合は年間約760万円に対し、自社支援は専任担当者を配置しても約616万円。年間約144万円の差額が生じます。実際の企業事例では、57名受入れの千葉県ビルクリーニング企業が年間2,000万円超、80名受入れの東京都外食企業が年間1,900万円以上のコスト削減を実現しています。削減した費用を外国人の住宅補助や日本語学習支援、資格取得支援に充当することで、定着率の向上と特定技能2号への移行促進にもつなげられます。
メリット・デメリット比較と判断基準
コストだけでなく、業務負担や支援品質の観点も含めた総合的な判断が必要です。委託費の安さだけで登録支援機関を選ぶと支援の質が低く、外国人の不満や離職につながるケースもあります。逆に、自社支援に移行しても体制が不十分だと法令違反のリスクが生じます。
自社支援のメリット・デメリット
メリットは、委託費の削減(10人で年間約46万円〜)、外国人との直接コミュニケーションによる信頼関係構築・定着率向上、問題発生時の迅速な対応、支援ノウハウの社内蓄積です。デメリットは、義務的支援10項目の業務負担、入管法・労働法の知識の継続的アップデートの必要性、多言語対応の自前構築、3名以上になると書類作成業務が膨大になる点、担当者の退職時に後任者の育成が間に合わないリスクがある点です。
委託のメリット・デメリット
メリットは、入管制度に精通した専門家による支援、義務的支援10項目の業務負担軽減、法改正への迅速な対応、第三者の立場での相談窓口機能(外国人が企業に直接言いにくい不満や相談を受けられる)です。デメリットは、継続的なコスト負担(10人で年間300万円以上)、外国人との直接コミュニケーションの機会が減少し定着率に影響する可能性、約11,000機関の中で支援品質に大きな差があること、2027年の要件厳格化で委託費値上げのリスクがある点です。
自社に最適な支援体制を判断するチェックポイント
判断の目安として、外国人5人以下なら委託、10人前後なら一部委託(ハイブリッド型)、20人以上なら自社支援への移行を検討する価値があります。加えて、社内に外国語対応できるスタッフがいるか、総務・人事部門に支援業務を担当できる余力があるか、過去2年間の受入れ実績があるかを総合的に考慮して判断してください。なお、一度自社支援に移行した後でも、業務量の増加や担当者の退職等で体制維持が困難になった場合は、再度登録支援機関への委託に切り替えることも可能です。
一部委託(ハイブリッド型)の活用と切替手続き
全面委託から自社支援への移行は、一度に切り替えるのではなく、一部委託(ハイブリッド型)を経由した段階的移行がリスクを最小限に抑えた現実的な方法です。制度上、義務的支援10項目のうち一部のみを登録支援機関に委託し、残りを自社で実施することが認められています。
ハイブリッド型で委託しやすい業務・自社で実施しやすい業務
通訳が必要な事前ガイダンス、空港送迎、生活オリエンテーションは委託に向いています。一方、定期面談、相談・苦情対応、日本人との交流促進、日本語学習機会の提供は日常的な関係構築の延長として自社実施が効果的です。段階的に自社化の範囲を広げることで、支援ノウハウを蓄積しながら委託費を段階的に削減できます。おすすめの移行ステップは、1年目は全面委託で業務全体を把握、2年目は定期面談・相談対応を自社化、3年目以降は完全自社支援への移行を目指す流れです。
切替え時に必要な届出
支援体制を変更する場合、変更の事実が発生してから14日以内に以下の届出が必要です。
- 支援計画変更届出(参考様式第3-2号)+新しい支援計画書(参考様式第1-17号)+組織図
- 支援委託契約届出(参考様式第3-3-2号)+契約説明書(参考様式第1-25号)
届出先は受入企業の本店住所を管轄する地方出入国在留管理官署です。窓口への持参、郵送、出入国在留管理庁の電子届出システムのいずれでも提出可能です。届出を怠ると30万円以下の罰金の対象となるだけでなく、特定技能の在留資格取消事由にもなり得るため、必ず期限内に提出してください。なお、2027年4月の改正後は、支援業務の委託先が登録支援機関のみに限定されます。現在登録支援機関以外に委託している場合は、施行後最初の在留期間更新までの経過措置期間中に登録支援機関または自社支援への切替えが必要です。
まとめ|2027年を見据えた最適な支援体制の選び方
自社支援と委託の選択は、外国人の人数規模・社内の人材リソース・将来の採用計画を総合的に考慮して判断すべきです。
規模別おすすめ支援体制
- 5人以下:登録支援機関への全面委託が合理的。自社支援の立ち上げコストに見合わない
- 6〜15人:一部委託(ハイブリッド型)を検討。定期面談・相談対応を自社化し、通訳が必要な業務は委託
- 16人以上:自社支援への完全移行を積極的に検討。専任担当者を配置しても年間100万円以上の大幅なコスト削減が見込める
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2027年4月の要件厳格化により、登録支援機関の委託費は値上げが予想されます。自社支援のコストメリットは今後さらに拡大していく見込みです。早めの準備が重要です。自社支援への移行をご検討の場合や、最適な支援体制の選択でお悩みの際は、ぜひ当事務所にご相談ください。特定技能制度に精通した行政書士が、御社の状況に応じた最適な支援体制の構築と届出手続きをワンストップでサポートいたします。



