「育成就労制度で転籍ができるようになるって聞いたけど、具体的にどんな条件があるの?うちの従業員が転籍してしまう可能性は?」
2027年4月施行の育成就労制度では、技能実習制度で原則禁止されていた転籍(転職)が、一定の条件のもとで認められるようになります。転籍には「やむを得ない事情による転籍」と「本人意向による転籍」の2種類があり、それぞれ条件や手続きが大きく異なります。技能実習制度では転籍が認められないことが失踪や人権侵害の一因とされていたため、育成就労制度では外国人労働者の権利保護と人材の適正な流動化を両立する仕組みが設計されました。受入企業にとっては、転籍による人材流出リスクと向き合いながら、「選ばれる職場」をつくることが今後の外国人材確保の鍵を握ります。
- やむを得ない事情による転籍の4要件と認められる具体的ケース
- 本人意向による転籍の6つの条件(転籍制限期間・技能試験・日本語要件等)
- 転籍者数の上限規制(受入れ全体の1/3以内、大都市圏は1/6以内)
- 分野別の転籍制限期間(1年の9分野と2年の8分野)の詳細比較
- 転籍の手続きフローと企業が取るべき人材定着策
受入企業として転籍制度の全容を正確に理解し、人材の定着と適切な制度対応の両方に備えましょう。制度施行後は3年間の移行期間を経て完全移行が予定されており、2027年4月の施行日以降に受け入れる外国人には転籍制度が適用されます。本記事では、受入企業の視点から転籍制度の全容をわかりやすく解説します。
育成就労制度における転籍の全体像
育成就労制度で認められる転籍には、やむを得ない事情による転籍と本人意向による転籍の2種類があります。技能実習制度では転籍は原則として認められず、やむを得ない場合のみ例外的に認められていましたが、転籍先が見つからず失踪する事例が多発していました。2022年11月に設置された有識者会議(技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議)での議論を経て、2024年6月に改正入管法及び育成就労法が国会で成立し、外国人労働者の人権保護と人材確保を両立する新たな転籍制度が設計されました。転籍制度の導入は、日本が国際的な外国人材獲得競争において「選ばれる国」であり続けるためにも不可欠な改革と位置付けられています。受入企業としては、2027年4月の施行に向けて、自社の労働環境を総点検し、転籍されにくい魅力ある職場づくりを今から進めることが重要です。
技能実習制度との転籍ルールの違い
技能実習制度では原則3年間、同一の実習先でしか就労できず、転籍は「やむを得ない場合」のみに限定されていました。この厳格な転籍制限が、劣悪な労働環境にいる実習生の救済を困難にし、年間約9,000人規模の失踪者を生む一因とされていました。育成就労制度では、やむを得ない事情による転籍の範囲が拡大・明確化されるとともに、本人の意向による転籍も新たに認められます。これにより、外国人労働者は職場選択の自由を一定程度確保できるようになります。なお、やむを得ない事情による転籍と本人意向による転籍では、適用される条件が大きく異なります。やむを得ない転籍は転籍制限期間内でも申請でき、初期費用の補填金支払いも免除されますが、本人意向転籍には転籍制限期間の経過や技能試験合格などの条件が求められます。受入企業が知っておくべきは、転籍制限期間が「1年」と設定されている分野では、就労開始から1年で本人意向転籍が可能になるという点です。企業としては、まずやむを得ない転籍を発生させないための法令遵守と労働環境整備が最優先であり、そのうえで本人意向転籍を防ぐための待遇改善や定着施策に取り組む必要があります。
転籍制度の基本設計
転籍は同一の業務区分(分野内)でのみ認められ、異なる分野への転籍はできません。例えば、介護分野の育成就労外国人が建設分野に転籍することは認められません。また、転籍の仲介は監理支援機関・外国人育成就労機構・ハローワークの公的機関に限定され、民間の職業紹介事業者は関与できません。これは悪質なブローカーの介入を防止し、外国人労働者が不当な手数料を徴収されることを防ぐための措置です。転籍の際には転籍先の企業が新たな育成就労計画の認定を受ける必要があり、認定は外国人育成就労機構を通じて出入国在留管理庁長官及び厚生労働大臣が行います。なお、やむを得ない事情による転籍の場合は、転籍者数の上限規制(1/3・1/6ルール)の算定から除外され、初期費用の補填金支払いも免除されるため、転籍元企業にとっての経済的負担はありません。転籍に際しては、育成就労外国人の意向も確認したうえで転籍先のマッチングが行われるため、本人が望まない転籍は行われない設計となっています。以下では、それぞれの転籍の条件と手続きの詳細を解説します。
やむを得ない事情による転籍|条件と認められるケース
やむを得ない事情による転籍は、転籍制限期間内であっても認められる転籍です。育成就労制度では、技能実習制度よりも適用範囲が拡大・明確化されています。
認められる4つの事由
- 雇用契約違反:雇用契約において定められた事項について、育成就労実施者(受入企業)による重大な違反があった場合。賃金の未払い・遅延、労働時間の大幅超過などが該当します
- 人権侵害行為:育成就労実施者が暴行・脅迫・自由の制限その他人権を侵害する行為を行った場合。パスポートの取上げ、外出制限、身体的・精神的暴力などが含まれます
- 法令違反:育成就労実施者が出入国に関する法令または労働関連法令に関し不正または著しく不当な行為をした場合。不法就労助長、労働基準法違反(賃金未払い、違法な長時間労働等)、労働安全衛生法違反などが該当します
- その他の事情:育成就労の適正な実施の確保または育成就労外国人の保護の観点から、当該育成就労の継続が相当でないと認められる場合。受入企業の倒産や事業縮小もこれに含まれます
やむを得ない転籍の手続き
やむを得ない事情による転籍を申し出る場合、育成就労外国人は監理支援機関や外国人育成就労機構に相談します。育成就労実施者には、転籍の申出を受けた場合に監理支援機関への通知義務があり、この通知義務に違反すると30万円以下の罰金が科されます。転籍手続き中の外国人は「特定活動(就労可・4月)」への在留資格変更により、生活を維持しながら転籍先を探すことができます。
本人意向による転籍|6つの条件と注意点
本人意向による転籍は、育成就労制度で新たに導入される仕組みです。外国人労働者がより良い環境を求めて自らの意思で転籍を行うことが可能になりますが、無秩序な人材流出を防ぐため6つの条件が設けられています。
条件1:転籍制限期間の経過
同一の育成就労実施者のもとで、分野ごとに定められた期間以上の就労が必要です。転籍制限期間は分野によって1年または2年に設定されています。制度趣旨として「1年とすることを目指す」とされていますが、当分の間は人材育成や人材確保の観点から2年とする分野も認められています。2年の分野では、育成就労外国人への昇給その他の待遇向上措置を講ずることが義務付けられています。
条件2:技能検定試験基礎級の合格
転籍時点で技能検定試験基礎級またはそれに相当する試験に合格していることが必要です。これは、一定の技能水準に達していることの客観的な証明であり、転籍先での業務遂行能力を担保するための要件です。受入企業としては、育成就労外国人が計画どおりに技能試験に合格できるよう、OJTや試験対策の支援を行うことが、転籍防止にもつながります。
条件3:日本語能力A1(N5)以上の合格
日本語能力A1相当以上(JLPT N5レベル等)の試験に合格していることが必要です。分野によってはA2相当(N4レベル)以上の上乗せ要件が設定される場合があります。介護分野では入国時からN4以上が求められるため、転籍時の日本語要件もN4以上となります。
条件4:転籍先の適格要件
転籍先の育成就労実施者は、技能および日本語能力の育成実績等に照らして「優良」であると認められる必要があります。また、転籍先は同一の業務区分であることが必須で、異なる業務区分への転籍はできません。転籍先で新たな育成就労計画の認定申請を行い、認定を受ける必要があります。
条件5:公的機関を経由した転籍
転籍の職業紹介は、監理支援機関・外国人育成就労機構・ハローワーク(公共職業安定所)のいずれかを経由して行う必要があります。民間の職業紹介事業者は、育成就労外国人の転籍に関与することができません。
転籍者数の上限規制と地域制限
本人意向による転籍には、無秩序な人材流出を防ぐための数量的な制限が設けられています。特に地方から大都市圏への人材集中を防ぐ仕組みが重要です。
転籍者割合の上限
転籍先の育成就労実施者が受け入れている育成就労外国人の総数に対して、本人意向による転籍者の割合が3分の1以下でなければなりません。例えば、6人の育成就労外国人を受け入れている企業の場合、そのうち本人意向の転籍者は最大2人までとなります。この制限により、特定の企業が転籍者ばかりを受け入れる事態を防止しています。
大都市圏への転籍制限
地方から大都市圏の企業へ転籍する場合は、さらに厳しい制限が適用されます。大都市圏の育成就労実施者が受け入れる転籍者の割合は、育成就労外国人の総数の6分の1以下に制限されます。この規制は、地方の人材不足をさらに悪化させないための措置です。大都市圏(指定区域外)とは、埼玉県・千葉県・東京都・神奈川県・愛知県・京都府・大阪府・兵庫県の8都府県が対象となる見込みです。ただし、これら8都府県内でも人口が少ない市町村は地方扱いとなる場合があり、具体的な区域は法務大臣及び厚生労働大臣の告示で定められます。
初期費用の補填制度
本人意向の転籍では、転籍元の企業が外国人の受入れに要した初期費用の一部を、転籍先の企業が補填する義務があります。補填額は、法務大臣・厚生労働大臣が告示で定める金額に、就労期間に応じた按分率を乗じて算出されます。
| 転籍元での就労期間 | 按分率 |
|---|---|
| 1年6月未満 | 6分の5 |
| 1年6月以上2年未満 | 3分の2 |
| 2年以上2年6月未満 | 2分の1 |
| 2年6月以上 | 4分の1 |
この制度により、転籍元企業の育成投資が一定程度保護されます。就労期間が短いほど補填額が大きくなるため、転籍先企業にとっては早期転籍者の受入れにコストがかかる仕組みです。
転籍制限期間の分野別比較
転籍制限期間は分野ごとに1年または2年で設定されています。将来的にはすべての分野で1年とすることが目指されていますが、当分の間は人材育成に時間を要する分野で2年が維持されます。
転籍制限期間2年の分野(8分野)
介護・建設・工業製品製造業・造船舶用工業・自動車整備・飲食料品製造業・外食業・資源循環の8分野は転籍制限期間が2年です。これらの分野は、技能習得に一定期間が必要であることや、安全管理上の理由から2年が設定されています。2年の分野では、育成就労外国人への昇給その他の待遇向上措置を講ずることが義務付けられています。介護分野では昇給に加え、キャリアプランの作成も義務化されています。
転籍制限期間1年の分野(9分野)
ビルクリーニング・リネンサプライ・宿泊・鉄道・物流倉庫・農業・漁業・林業・木材産業の9分野は転籍制限期間が1年です。これらの分野は比較的短期間で基礎的な技能習得が可能と判断されたため、制度の目指す方向性である「1年」が適用されています。1年の分野は早期に転籍されるリスクがあるため、企業にとって待遇改善と定着施策がより重要になります。
受入企業が取るべき人材定着策
転籍が認められる育成就労制度のもとでは、企業が「選ばれる職場」になることが人材確保の鍵を握ります。転籍を前提とした人材戦略への転換が求められます。
賃金・待遇の競争力強化
転籍制限期間が2年の分野では昇給が義務付けられていますが、人材定着のためには義務以上の待遇改善が効果的です。同一分野の他社と比較して競争力のある賃金設定を行い、定期的な昇給制度を整備することが重要です。住宅支援や食事補助などの福利厚生の充実も、外国人労働者にとって大きな定着要因となります。
キャリアパスの明確化と技能育成
育成就労から特定技能1号への移行を見据えたキャリアパスを明確に提示することが、人材定着に直結します。技能検定試験の対策支援、日本語学習の機会提供、OJTによる計画的な技能向上プログラムの実施が求められます。育成就労外国人が「この企業で3年間働けば特定技能1号に移行できる」と実感できる育成計画を策定しましょう。
職場環境と生活支援の整備
日本語でのコミュニケーション支援、文化的配慮のある職場環境の整備、生活面での相談体制の構築が重要です。母国語での相談窓口の設置、地域の日本語教室との連携、休日のレクリエーション活動の企画など、職場以外の生活面でもサポートを行うことで、外国人労働者の満足度と定着率が向上します。ハラスメント防止体制の構築と多文化共生の職場づくりも、転籍防止の基盤となります。育成就労制度はもはや「安い労働力」を求める制度ではなく、コストをかけて人材を育て、正当な待遇で定着してもらう制度であることを認識しましょう。
まとめ|転籍制度を正しく理解して人材定着につなげる
育成就労制度の転籍制度は、外国人労働者の人権保護と企業の人材確保を両立するために設計された仕組みです。転籍を「リスク」として捉えるだけでなく、人材定着のための施策を強化する契機として活用することが重要です。なお、2027年4月の施行日以前に来日している技能実習生には引き続き技能実習制度のルールが適用されるため、転籍制度が適用されるのは施行後に新たに受け入れる育成就労外国人からです。
企業が押さえるべきポイント
- やむを得ない転籍は転籍制限期間内でも認められるため、法令遵守と適切な労働環境の確保が最低限の対策
- 本人意向転籍は6つの条件を満たす場合に限られるが、転籍制限期間1年の分野は特に注意が必要
- 転籍者数の上限(全体の1/3以内、大都市圏は1/6以内)により無秩序な流出は制限されている
- 初期費用の補填制度により、転籍元企業の育成投資は一定程度保護される
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転籍制度への対応は、育成就労計画の策定や監理支援機関との連携と密接に関わります。当事務所では、育成就労制度に精通した行政書士が、転籍リスクを踏まえた育成就労計画の作成から人材定着策の助言まで、ワンストップでサポートいたします。初回相談は無料ですので、お気軽にお問い合わせください。



