「補完的保護対象者を雇用したいが、就労制限があるのかどうかわからない」「難民認定申請中の外国人をアルバイトとして雇っても大丈夫なのか確信が持てない」
こうした相談が、外国人雇用に携わる企業の人事担当者や登録支援機関から増えています。2023年12月に施行された改正入管法により「補完的保護対象者認定制度」が新たに創設され、従来の難民認定制度とは異なる保護の枠組みが設けられました。本記事では、以下のポイントを2026年3月時点の最新情報をもとに解説します。
- 補完的保護対象者制度の概要と難民認定制度との違い
- 補完的保護対象者の在留資格・就労権限と最新の認定者数統計
- 企業が雇用時に確認すべき事項と実務上の留意点
- 難民認定申請中の外国人を雇用する際のリスクと対処法
外国人の人道的保護と雇用管理の両面を正しく理解するために、最後までお読みください。
補完的保護対象者制度とは:2023年改正入管法で新設された保護制度
「補完的保護対象者」は、2023年の入管法改正によって初めて日本の法律に位置づけられた新しい保護カテゴリーです。その内容を正確に理解することが、適切な雇用管理の第一歩です。
改正入管法と補完的保護対象者制度の創設経緯
日本はこれまで、1951年の「難民の地位に関する条約」(難民条約)に基づく難民認定制度のみを設けていました。難民条約が保護対象とするのは「人種・宗教・国籍・特定の社会的集団の構成員であること・政治的意見を理由とした迫害を受けるおそれがある外国人」に限られており、紛争や内戦を逃れてきた人々(いわゆる「紛争避難民」)が制度の対象外となるケースが問題視されてきました。
2023年(令和5年)6月に改正入管法が成立し、同年12月1日に施行されました。この改正により、難民条約上の難民には該当しないものの、本国に帰れば武力紛争や組織的暴力により生命・身体が危険にさらされるおそれのある外国人を「補完的保護対象者」として認定し、保護する新制度が設けられました。
難民認定制度との違いと補完的保護の位置づけ
難民認定と補完的保護対象者認定は、保護の根拠は異なりますが、認定後の処遇はほぼ同等です。主な違いは以下のとおりです。
| 項目 | 難民認定 | 補完的保護対象者認定 |
|---|---|---|
| 法的根拠 | 難民条約・入管法第61条の2 | 改正入管法第61条の2の2(2023年新設) |
| 保護対象 | 迫害を受けるおそれのある外国人(5つの理由に限定) | 武力紛争・組織的暴力等で生命・身体が危険な外国人 |
| 付与される在留資格 | 定住者(原則) | 定住者(原則・難民と同等) |
| 就労制限 | なし(定住者として自由に就労可) | なし(定住者として自由に就労可) |
| 社会保障 | 国民年金・国民健康保険など適用 | 難民と同様に適用 |
申請手続きの流れと審査の概要
補完的保護対象者の認定申請は、難民認定申請と同じ手続きの中で行われます。申請者が難民条約上の難民に該当しないと判断された場合でも、補完的保護対象者に該当するかどうかが続けて審査されます。申請から認定まで、一般的に数ヶ月〜1年以上かかることが多く、審査中の在留については個別に対応されます。
ポイント: 補完的保護対象者制度は2023年12月1日施行の新制度です。従来「人道的配慮に基づく在留許可」として個別処理されてきた紛争避難民を、法的に位置づけた点で画期的な制度変更です。
補完的保護対象者の在留資格と就労権限
補完的保護対象者として認定された外国人には、どのような在留資格が与えられ、就労はどこまで認められるのでしょうか。企業の採用担当者が押さえておくべき基本事項を整理します。
付与される在留資格「定住者」の内容
補完的保護対象者として認定された外国人には、難民認定者と同様に在留資格「定住者」が付与されます。定住者の在留資格には、就労活動に制限がありません。すなわち、補完的保護対象者として認定された外国人は、日本在住の日本人と同様に、業種・職種・労働時間を問わず就労することができます。
在留期間は初回認定時に1年または3年が付与されることが一般的で、在留状況が良好であれば更新が認められます。更新後も引き続き「定住者」の在留資格が継続し、将来的には永住許可申請の要件(10年以上の継続在留等)を満たす可能性もあります。
在留カードに記載される情報と企業の確認方法
補完的保護対象者に付与された「定住者」の在留カードは、通常の定住者の在留カードと同じ形式です。在留カードには以下の情報が記載されており、採用時に確認します。
- 在留資格欄:「定住者」と記載されている
- 在留期間欄:1年または3年が記載されている
- 就労制限の有無欄:「就労制限なし」または空欄(制限なしを意味する)
- 在留カード番号:12桁の英数字
「定住者」の在留カードを提示された場合、就労に問題はありません。ただし、在留カードの有効期限内であることを必ず確認し、期限が切れている場合は更新済みの在留カードを提示してもらう必要があります。
定住者と永住者・特別永住者との違い
「定住者」と「永住者」「特別永住者」はいずれも就労制限がありませんが、法的な安定性が異なります。定住者の在留資格には期限があり(一般的に1〜5年)、定期的に在留期間の更新が必要です。補完的保護対象者として認定された方は、まず「定住者」として在留し、継続的な在留実績を積むことで、将来的な在留資格の安定化が可能となります。
補完的保護対象者の認定者数と国籍別動向(2024年統計)
補完的保護対象者制度の施行から1年余りが経過した2024年末時点の統計データを確認しましょう。制度の規模と対象者の属性を理解することは、企業の採用計画にも関係します。
2024年(令和6年)の補完的保護対象者認定者数
出入国在留管理庁が2025年3月に発表した統計によると、2024年に補完的保護対象者として認定された人数は1,661人でした。これは2024年の難民認定者数190人と合わせると、合計1,851人が日本での在留を人道的保護のもとで認められたことになります。
参考として、補完的保護対象者制度開始(2023年12月)から2024年末にかけての累計認定者数は以下のとおりです。
| 期間 | 補完的保護対象者認定数 | 主な国籍 |
|---|---|---|
| 2023年12月〜2024年2月 | 647人 | ウクライナ 644人 |
| 2024年(1〜12月) | 1,661人 | ウクライナ 1,618人・その他43人 |
国籍別の特徴:ウクライナ避難民が大多数
2024年の補完的保護対象者1,661人のうち、1,618人(97.4%)がウクライナ国籍です。2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻以降、日本に避難したウクライナ人が同制度の主要な受益者となっています。残りの43人はアフガニスタン・シリア・ミャンマー等の紛争・内戦状況にある国からの避難民です。
ウクライナ避難民については、日本政府の積極的な受け入れ政策のもと、在留環境・就労支援・日本語学習支援などの体制整備も進んでいます。
今後の見通しと制度拡大の可能性
補完的保護対象者制度は施行から2年余りが経過した段階で、運用実績を踏まえた制度の見直しや対象範囲の明確化が今後も続くと見込まれます。難民申請者数は2023年に13,823人と過去最多水準を記録しており、補完的保護対象者としての認定審査数も今後増加する可能性があります。企業の採用担当者は、「定住者」としての採用事例が増えることを念頭に置いた管理体制を整えておくことが重要です。
企業が補完的保護対象者を雇用する際の確認事項と手続き
補完的保護対象者は就労制限がなく、適法に就労できる「定住者」として雇用できます。しかし、通常の外国人雇用と同様に、採用時・雇用中にいくつかの確認・手続きが必要です。
採用時に必要な書類確認と記録保管
補完的保護対象者(定住者)を採用する際に確認すべき書類は以下のとおりです。
- 在留カード(原本):在留資格「定住者」、在留期間の有効期限、就労制限の有無欄を確認。在留カード番号はシステムに記録
- 在留カードの真正性確認:出入国在留管理庁の「在留カード等読取アプリケーション」でICチップの読み取りを行い真偽を確認
- パスポート(任意):補完的保護対象者の多くは母国のパスポートが失効・未更新のケースがある。在留カードがあれば就労確認としては十分
- 在留期間の確認:在留期間の期限が近い(残り3ヶ月以内等)場合は、更新申請の状況を確認する
採用した記録は、在留カードのコピーとともに雇用契約書・入社書類として保管します。後日の在留管理・更新確認にも活用できます。
ハローワークへの外国人雇用状況届出
補完的保護対象者(定住者)を雇用・離職させた場合も、他の外国人労働者と同様に、ハローワークへの「外国人雇用状況届出」が義務付けられています。
- 届出期限:雇入れ・離職の翌月末日までに届出
- 届出方法:雇用保険被保険者資格取得届・喪失届と同時に提出(雇用保険対象外の場合は別途届出が必要)
- 届出内容:在留資格・在留期間・在留カード番号・国籍等
2025年以降、外国人雇用状況届出のオンライン化(マイナポータル連携)が進んでいるため、ハローワークシステムへの電子申請を優先的に活用することをお勧めします。
在留期間更新への対応と継続雇用の管理
補完的保護対象者の「定住者」在留資格は1〜3年ごとに更新が必要です。雇用中の従業員が在留期間の更新を失念するケースがあるため、企業側でも以下の管理を行うことが望ましいです。
- 在留カード有効期限を人事システムに登録し、期限3ヶ月前にアラートが出る設定にする
- 期限が近づいたら本人に更新手続きの確認・促しを行い、更新後の在留カードコピーを提出してもらう
- 更新申請中(「申請中」シールが在留カードに貼付されている状態)でも就労は継続可能
難民認定申請中の外国人の就労制限と雇用リスク
補完的保護対象者に認定される前、つまり「難民認定申請中」の外国人を雇用する場合は、就労の可否に注意が必要です。認定後と認定前では就労権限が大きく異なります。
難民認定申請中の就労の原則:制限あり
難民認定申請中の外国人は、在留資格によって就労の可否が異なります。申請中だからといって自動的に就労が認められるわけではありません。主なケースは以下のとおりです。
- 有効な就労系在留資格がある場合:在留期間内であれば、その在留資格の範囲内で就労可能
- 就労不可の在留資格(留学・家族滞在等)で申請中の場合:難民認定申請のみでは就労は認められない。別途「資格外活動許可」の取得が必要
- 在留資格なし(オーバーステイ等)で申請中の場合:原則として就労不可
2023年の改正入管法では、難民認定申請の「3回目以降は送還停止効が停止」されるなど、申請を繰り返すことによる在留継続の難易化が図られています。これにより、難民認定申請中の外国人の在留状況がより複雑になっています。
申請中の外国人を誤って就労させた場合のリスク
就労が認められていない状態の外国人を就労させた場合、雇用主は「不法就労助長罪」に問われるリスクがあります。2025年6月の法改正後、同罪の法定刑は「5年以下の懲役または500万円以下の罰金(またはこれらの併科)」に強化されました。
注意: 難民認定申請中の外国人を雇用する際は、必ず在留カードで在留資格と就労制限の有無を確認してください。「申請中」という事実だけでは就労は認められません。疑問がある場合は採用前に行政書士または出入国在留管理局に相談することをお勧めします。
補完的保護対象者に認定された時点での就労開始
難民認定申請中の外国人が補完的保護対象者として認定された場合、認定通知を受け取った後に「定住者」の在留資格への変更手続きを経て、新しい在留カードが発行されます。就労開始は、この新しい在留カード(在留資格「定住者」)を取得した後となります。申請中は就労できていなかった方でも、認定後は速やかに就労支援を行うことが企業の役割として期待されます。
補完的保護対象者・難民の雇用に関するよくある質問
補完的保護対象者の雇用に関して、企業担当者からよく寄せられる質問とその回答をまとめました。
在留カード確認・雇用管理に関するQ&A
Q1. 補完的保護対象者(定住者)の在留カードは、通常の定住者と外見上の違いはありますか?
A. 基本的には同じ在留カードです。補完的保護対象者であることを示す特別な記載は在留カード上には現れません。在留資格欄には「定住者」と記載されており、就労制限の有無欄も同じです。
Q2. ウクライナ避難民の中にはパスポートを持っていない方もいますが、雇用できますか?
A. 在留カードがあれば、就労確認にはパスポートは必須ではありません。「定住者」の在留カードを提示できれば採用手続きを進めることができます。
Q3. 在留期間中に補完的保護対象者の認定が取り消された場合、雇用はどうなりますか?
A. 認定が取り消されると「定住者」の在留資格も失われる可能性があります。雇用主には認定取り消しを直接知る手段がないため、定期的な在留カード確認と本人への状況確認が重要です。疑問がある場合は行政書士に相談してください。
就労・給与・社会保険に関するQ&A
Q4. 補完的保護対象者は、すべての職種・業種で就労できますか?
A. はい。「定住者」の在留資格には職種・業種の制限がありません。フルタイム・パートタイムを問わず、日本人社員と同様の条件で雇用できます。
Q5. 社会保険・雇用保険の加入義務はありますか?
A. 加入条件(週20時間以上の就労等)を満たす場合、日本人と同様に社会保険・雇用保険・労災保険への加入が義務付けられます。補完的保護対象者だからといって免除されることはありません。
Q6. 日本語能力が不十分な補完的保護対象者を採用する場合の留意点は?
A. 業務内容や安全管理上の説明を多言語で行う配慮が必要です。自治体・NPOによる日本語学習支援プログラムへの参加を促すことも有効です。ウクライナ避難民に対しては、多くの自治体が日本語学習・生活支援サービスを提供しています。
制度改正・今後の動向に関するQ&A
Q7. 2026年以降、補完的保護対象者制度はさらに改正される予定はありますか?
A. 2026年3月時点では、補完的保護対象者制度の対象範囲の明確化や審査の迅速化に向けた検討が続いています。また、難民認定制度全体の見直し(認定率の向上・第三者機関の設置等)の議論も継続中です。最新情報は出入国在留管理庁の公式発表をご確認ください。
行政書士によるサポートと相談すべきタイミング
補完的保護対象者の雇用管理は、通常の外国人雇用と重なる部分が多い一方で、在留資格の経緯や在留期間更新の特殊性など、専門的な判断が必要な場面もあります。行政書士の活用が有効です。
行政書士が対応できる補完的保護関連の手続き
補完的保護対象者の雇用に関連して、行政書士が支援できる主な業務は以下のとおりです。
- 在留カード確認の実務指導:採用担当者向けに補完的保護対象者を含む外国人在留カードの確認方法を指導
- 在留資格変更・更新申請のサポート:補完的保護対象者の定住者在留期間更新申請、または将来的な定住者から永住者への変更申請の書類作成・提出
- 就業規則・雇用契約書の整備:補完的保護対象者を含む外国人全般の雇用に対応した書式整備
- 外国人雇用状況届出の代行:ハローワークへの届出書類の作成・提出
- 在留状況の判断相談:申請中・審査中の外国人の就労可否について個別に判断するためのアドバイス
ポイント: 補完的保護対象者制度は2023年12月に始まった新制度のため、実務経験を積んだ行政書士はまだ限られます。入管業務に強く、難民・人道的保護に関する手続き経験のある事務所を選ぶことが重要です。
相談すべきタイミングと費用の目安
以下のタイミングで行政書士に相談することをお勧めします。
- 補完的保護対象者(定住者)の採用を初めて検討するとき
- 難民認定申請中の外国人から採用の打診があり、就労可否を確認したいとき
- 雇用中の補完的保護対象者の在留期間更新が近づいたとき
- 補完的保護対象者の将来的な定住者更新・永住申請をサポートしたいとき
相談費用は初回無料の事務所が多く、在留期間更新申請の代行で3万〜8万円程度が目安です。雇用管理体制の整備コンサルティングは案件の複雑さによって異なります。当事務所では補完的保護対象者を含む外国人雇用全般のご相談を承っております。まずはお気軽にお問い合わせください。



