「育成就労に切り替えたら、コストがどれくらい変わるんだろう…」
技能実習制度の廃止が2027年4月に迫り、多くの企業がこの疑問を抱えています。
・技能実習と育成就労、3年間の総コストはどう変わる?
・どんな費用が増えて、どんな費用が減るのか?
・自社の規模でシミュレーションするとどうなるか?
本記事では、企業が負担するコストを技能実習と育成就労で徹底比較し、導入前に知っておくべき費用設計の全体像を解説します。コスト増を恐れるのではなく、正確な数字を把握した上で、長期的に有利な採用戦略を立てるためのヒントをお届けします。
育成就労のコスト全体像:技能実習との違いを俯瞰する

育成就労制度は、技能実習制度を廃止・発展させた新制度です。制度の目的が「労働力確保・技術移転」から「人材育成・キャリア形成支援」に転換されたことで、企業が負担するコスト構造にも大きな変化が生じます。
コスト比較の前提条件
本記事では、以下の条件でコスト比較を行います。
- 比較対象:技能実習(団体監理型)3年間 vs 育成就労(監理支援機関経由)3年間
- 対象人数:1名採用のケースを基本とし、後に複数人規模のシミュレーションも掲載
- 給与・社会保険料は除外(制度によらず共通のため)
- 費用は「企業負担分」のみを対象とし、本人負担分は含まない
- 費用は2026〜2027年時点の想定相場を用いる(実際は業種・地域・契約先により変動)
なお、育成就労制度の詳細な費用規程は2027年4月の施行時点で確定しますが、現時点で公表されている政令・省令案をもとに試算しています。
総コストのざっくり比較
| 費用項目 |
技能実習(3年) |
育成就労(3年) |
増減 |
| 監理費・監理支援費 |
36〜60万円 |
48〜84万円 |
+12〜+24万円 |
| 日本語教育費 |
0〜12万円 |
30〜60万円 |
+18〜+60万円 |
| 送出機関費用 |
60〜120万円 |
30〜60万円 |
▲30〜▲60万円 |
| 入国時諸費用 |
20〜30万円 |
20〜30万円 |
±0 |
| 行政書士報酬 |
10〜20万円 |
15〜30万円 |
+5〜+10万円 |
| 合計(概算) |
126〜242万円 |
143〜264万円 |
約+20〜+50万円 |
育成就労では**3年間で約20〜50万円程度のコスト増**が見込まれます。ただし費用増加の要因と削減できる項目の両方があるため、自社の状況に合わせた詳細分析が重要です。次章以降で項目ごとに詳しく見ていきましょう。
コストが増える要因:育成就労で新たに発生する費用

育成就労では、制度の「人材育成」という目的に合わせて、いくつかの費用項目が新たに追加または増額されます。それぞれの背景と実際の金額感を確認しましょう。
①日本語教育費の企業負担化
技能実習では、入国前の日本語学習費用は実習生本人または送出機関が負担するケースが大半でした。入国後の日本語教育も義務ではなく、実施している企業とそうでない企業が混在していました。
育成就労では、**入国後の日本語教育(JLPT N4相当・JFT-Basicによる評価)を企業が実施・費用負担することが義務化**されます。特に1年目の早期段階でのA2レベル到達が求められており、計画的な教育体制が必要です。
- 外部の日本語学校・オンラインスクールに委託:月2〜5万円、年間24〜60万円
- 社内の日本語堪能スタッフが指導:人件費換算で月1〜2万円程度
- 3年間の日本語教育費総額(外部委託想定):30〜60万円が相場
日本語教育は「コスト」と捉えがちですが、外国人スタッフのコミュニケーション能力向上が業務効率・安全管理にも直結するため、適切に投資する価値があります。自社に日本語指導できる人材がいる場合は、外部委託コストを抑えながら教育の質を維持する工夫が有効です。
②監理支援機関への委託費増加
技能実習の監理団体費用は月額1〜1.5万円程度でしたが、育成就労の監理支援機関では**月額1.5〜2.5万円程度への値上がり**が見込まれます。3年間の監理費増分だけで**12〜30万円程度の追加負担**になります。
費用が上がる理由は以下のとおりです。
- 監理支援機関の許可基準が厳格化され、専任担当者の設置・研修受講が義務化
- 外部監査の受け入れ義務により運営コストが上昇し、委託費に転嫁される
- 転籍対応・本人意向確認などの新規業務が大幅に増加
- 従来の監理団体と比べて、より高度な支援能力が求められるため人件費が上昇
監理支援機関の選定では、単純に価格だけでなく、支援の質・担当者の専門性・実績なども重要な判断基準となります。複数機関から見積もりを取り、費用対効果で比較検討することをおすすめします。
③外部監査に伴うコスト増
育成就労では、監理支援機関に対して年1回の**外部監査**が義務付けられます。外部監査人(行政書士・社会保険労務士等の有資格者)が監理支援機関の運営実態を確認する仕組みです。
この費用は監理支援機関が直接負担する形になりますが、実質的に委託費(月額費用)に転嫁されるため、企業コストにも影響します。外部監査人の報酬は年間10〜20万円程度とされており、複数の受入企業でこのコストが分散されます。それでも監理支援機関の運営コスト増の一因となり、委託費上昇の背景となっています。
④昇給義務による人件費増(間接コスト)
育成就労では、育成就労計画への**昇給見込みの記載が義務化**されます。日本人と同等以上の処遇が明確に求められ、3年間を通じた賃金改善が必要です。これは直接的な制度費用ではありませんが、実質的な人件費増として計上する必要があります。
- 年間昇給率2〜3%を想定した場合、3年間の累積賃金増は入社時月給の約3〜5ヶ月分
- 例:月給22万円の場合、3年間の昇給分累積で約16〜33万円の人件費増
- 最低賃金の引き上げ動向も加味すると、実際の昇給圧力はさらに高まる可能性
技能実習でも日本人との同等処遇は求められていましたが、育成就労ではより明確な計画・記録・報告が求められます。昇給分を事前に見込んだ採用計画・予算設計が重要です。
コストが下がる要因:育成就労で削減できる費用

増加する費用がある一方で、育成就労では削減・整理される費用項目もあります。見落とされがちな削減ポイントを正確に把握することが、コスト最適化の第一歩です。
①送出機関費用の上限規制による削減
技能実習では、本人が送出機関に支払うブローカー費用(手数料)が高額になりやすく、**本人が多額の借金を抱えて来日する問題**が社会問題になっていました。中には渡航前に100万円以上のコストを負担させられるケースもあり、これが失踪や不正行為の温床になっていました。
育成就労では、**送出機関が受け取れる費用は月給の2ヶ月分以内**に上限が設けられます(政令案)。これにより、送出機関への高額な紹介料・手数料が大幅に抑制されます。
企業側にとっては、以下の形でコスト削減につながります。
- これまで送出機関への「お礼金」「紹介料」名目で支払っていた高額費用が制限される
- 月給20万円の場合、送出費用上限は40万円。従来の60〜120万円と比べると20〜80万円の削減余地
- 透明性の高い費用設定により、悪質な業者への支払いリスクが低減される
②定期届出の年1回化による事務コスト削減
技能実習では、受入機関は技能実習機構に対して**年2回の定期報告**が必要でした。各回の書類作成・提出には相当な事務作業が必要で、行政書士に委託している場合はその費用も年2回発生していました。
育成就労では、**定期届出が年1回**に整理・簡素化される見込みです(法令整備中)。これにより、年間の事務コストが以下のように削減されます。
- 行政書士委託費:年2回→年1回で、年間3〜8万円の削減
- 担当者の作業時間:書類準備・確認作業が半減
- 書類保管・管理のコスト:提出頻度の減少により管理負担も軽減
3年間で見ると、届出簡素化による削減効果は**9〜24万円程度**になります。
③悪質業者排除によるリスクコスト低減
技能実習では、不正な送出機関や監理団体が存在し、高額な費用を請求されたり、途中で失踪者が出て再採用コストが発生したりするリスクがありました。育成就労では許可制度が厳格化され、**悪質業者の市場退出が促進**されます。
これは直接的な費用削減ではありませんが、以下のリスクコストの低減として捉えることができます。
- 失踪・不正就労による行政指導・罰則リスクの低減
- 再採用・再入国コストの発生確率の低下
- 適正な機関との取引による長期安定的な採用体制の構築
3年間コストシミュレーション:規模別比較

実際に企業規模・採用人数別のシミュレーションを見てみましょう。
【1名採用の場合】小規模事業者向けシミュレーション
| 費用項目 |
技能実習 |
育成就労 |
差額 |
| 監理費(月1.2万×36ヶ月 / 月1.8万×36ヶ月) |
43万円 |
65万円 |
+22万円 |
| 日本語教育費(外部委託・月3.5万×12ヶ月) |
6万円 |
42万円 |
+36万円 |
| 送出機関費用(旧:80万円、新:月給2ヶ月分上限) |
80万円 |
44万円 |
▲36万円 |
| 入国時諸費用(渡航・健診・住居準備等) |
25万円 |
25万円 |
±0 |
| 行政書士報酬(申請・届出・更新) |
15万円 |
22万円 |
+7万円 |
| 合計(給与・社保除く) |
169万円 |
198万円 |
+29万円 |
1名採用の場合、3年間の追加コストは**約29万円程度**。送出費用の上限化による削減効果が大きく、コスト増は限定的です。ただし日本語教育費が大きな増加要因となるため、ここをいかに抑えるかがポイントになります。
【5名採用の場合】中規模事業者向けシミュレーション
| 費用項目(5名合計) |
技能実習 |
育成就労 |
差額 |
| 監理費(5名×3年) |
215万円 |
325万円 |
+110万円 |
| 日本語教育費(集合研修・5名) |
30万円 |
120万円 |
+90万円 |
| 送出機関費用(5名) |
400万円 |
220万円 |
▲180万円 |
| 入国時諸費用(5名) |
125万円 |
125万円 |
±0 |
| 行政書士報酬(5名) |
75万円 |
105万円 |
+30万円 |
| 合計(5名・給与・社保除く) |
845万円 |
895万円 |
+50万円 |
| 1名あたり換算 |
169万円 |
179万円 |
+10万円 |
5名規模では送出費用削減の恩恵が大きく、日本語教育も集合研修形式でコストを分散できるため、**1名あたりの追加コストは約10万円程度**まで圧縮されます。採用人数が多いほど、育成就労のコスト増は緩和されます。
【10名採用の場合】大規模事業者向けシミュレーション
10名以上になると、さらにスケールメリットが効いてきます。
- 日本語教育の集合研修コストが1名あたり月1〜1.5万円程度まで下がる
- 監理支援機関への交渉で複数人割引(月額費用の10〜20%割引)が期待できる
- 行政書士との顧問契約で月次費用に移行し、都度委託より割安になる
- 1名あたりの追加コストを5〜8万円程度に抑えられる可能性
10名超の採用では、社内に育成就労担当者・日本語指導員を設置するなど**内製化投資**が有効なコスト削減策になります。初期投資はかかりますが、規模が大きいほど回収が早くなります。
規模別コスト設計のポイント

採用規模によって、コスト設計の重点が異なります。自社の状況に合わせた戦略を立てましょう。
小規模(1〜2名)の企業が注意すべきこと
1〜2名規模では、固定費の按分が効きにくく、1名あたりのコストが高くなりやすい傾向があります。コスト最適化のポイントは以下のとおりです。
- 日本語教育は外部委託より社内実施(日本語堪能なスタッフを指導員として活用)でコスト削減
- 監理支援機関の選定では、複数の機関から見積もりを取り、品質・コストを比較する
- 行政書士報酬は「育成就労専門」の事務所を選ぶことで、適正価格で高品質なサービスを得やすい
- 近隣の企業との「共同実施」(日本語研修の合同開催など)でコストを分散させる工夫も有効
中規模(3〜10名)の企業が活用すべき仕組み
3名以上になると、スケールメリットが活きてきます。積極的に費用効率を高める仕組みを構築しましょう。
- 日本語教育は集合研修形式で1回あたり単価を下げる(1名月3〜5万円→1〜2万円に圧縮可能)
- 監理支援機関との交渉で複数人割引を取り付ける(3名以上なら交渉余地あり)
- 行政書士との顧問契約で届出・更新・相談コストを年間固定費化し、安定的な計画を立てる
- 育成就労計画を一括作成することで行政書士報酬の個別案件割引を活用する
大規模(10名超)の企業向けの戦略的取り組み
10名を超えると、コスト管理が経営課題になります。中長期的な視点で投資判断を行いましょう。
- 社内に育成就労担当者・日本語指導員を設置し、外部委託コストを内製化(2〜3年で回収見込み)
- 特定技能への移行(3年後)を前提としたキャリアパス設計で、再採用コストを削減
- 送出国ごとのコスト差を比較し、調達国を最適化する(ベトナム・フィリピン・インドネシアなど)
- 複数年の採用計画を立て、監理支援機関・行政書士との長期契約で費用を抑制する
行政書士費用:育成就労で何が変わるか

育成就労における行政書士費用は、技能実習より増加する傾向があります。しかし、増加する理由と抑制策を理解することで、費用対効果の高い依頼が可能になります。
育成就労で手続きが増える理由
育成就労では、技能実習にはなかった以下の新規手続きが発生します。
- 育成就労計画の認定申請(技能実習計画認定と類似するが、書式・内容が大幅に更新される)
- 本人意向転籍に関する書類作成・確認・届出手続き
- 昇給計画の記載・証明書類の作成(在留期間更新での収入証明追加)
- 育成就労に対応した新書式での各種届出書類の作成
- 特定技能への移行申請(3年後のキャリアパス実現時)
行政書士費用の目安と比較
| 業務内容 |
技能実習 |
育成就労 |
| 計画認定申請(1名) |
3〜5万円 |
4〜7万円 |
| 在留資格申請(1名) |
2〜4万円 |
2〜4万円 |
| 転籍手続き支援(1件) |
ほぼ不要 |
3〜8万円(新規) |
| 定期届出(年間) |
年2回:4〜10万円 |
年1回:2〜5万円 |
| 特定技能移行申請(3年後) |
別途必要 |
3〜6万円 |
定期届出の年1回化は費用削減につながりますが、転籍手続きの新規発生により、トータルの行政書士費用は**年間1〜5万円増**となる見込みです。転籍が発生しない場合は定期届出の削減効果のみとなり、コストが下がるケースもあります。
行政書士コストを最適化するためのポイント
育成就労の行政書士費用を適切にコントロールするには、以下のポイントを押さえましょう。
- 育成就労に対応した事務所を選ぶ(制度移行後は対応能力に差が生じる)
- 顧問契約で年間固定費化することで、個別依頼より総額を抑制できる
- 複数名の育成就労計画を一括作成することで割引を交渉する
- 自社で対応できる届出は内製化し、複雑な手続きのみ委託する
2027年に向けたコスト計画の立て方

育成就労は2027年4月施行予定です。今から逆算してコスト計画を立てることが、スムーズな制度移行と予算管理の両立につながります。
2026〜2027年のロードマップ
- 2026年前半:監理支援機関の選定・見積もり取得(少なくとも3機関以上を比較)
- 2026年前半:自社の育成就労コストシミュレーションを行政書士と共同で作成
- 2026年後半:社内育成就労担当者の指定・外部研修参加(制度理解と実務準備)
- 2026年後半:日本語教育体制の構築(委託先決定または社内指導体制整備)
- 2027年1〜3月:育成就労関連書式の確認・内部規程の整備(受入規程・支援計画など)
- 2027年4月以降:育成就労計画認定申請開始(技能実習からの切り替え対応)
予算計上の考え方
育成就労のコストを予算計上する際は、以下のステップで整理するとスムーズです。
- ステップ1:現状の技能実習コストを費用項目ごとに洗い出す(過去の支払い実績を集計)
- ステップ2:育成就労での増減費用を項目ごとに推計する(本記事のテーブルを参考に)
- ステップ3:差額分を来期以降の予算に追加計上し、不足があれば内製化・削減策を検討する
- ステップ4:昇給コストを3〜5年の長期人件費計画に組み込む
コスト増を吸収するための中長期視点
育成就労のコスト増は、適切に運用すれば**定着率向上・特定技能への移行**によって中長期的に回収できます。
技能実習では3年で帰国させる前提のため、毎回の採用・入国コスト(一人あたり80〜150万円)が繰り返し発生していました。育成就労では特定技能1号(最長5年)→特定技能2号(無期限・家族帯同可)へのキャリアパスが設計しやすくなります。**同じ人材に長期間活躍してもらうことで、採用コストの繰り返し発生を防ぎ、中長期ではトータルコストが下がる可能性**があります。
また、日本語能力・業務習熟度が高まることで生産性が向上し、コスト増以上の付加価値を生み出せるという側面もあります。制度移行を「コスト増」としてのみ捉えず、**人材への長期投資**として再設計することが、競合他社との差別化にもつながります。
まとめ:育成就労のコスト増は限定的、長期視点で計画を
育成就労と技能実習のコストを比較すると、以下のことがわかります。
- 3年間の費用は1名あたり約20〜50万円程度の増加(規模・条件によって差あり)
- 増加の主因は日本語教育費の義務化と監理支援費の増額
- 削減効果は送出機関費用の上限化(月給2ヶ月分)と届出の年1回化による事務コスト削減
- 5名以上の採用ではスケールメリットで1名あたりコスト増を10万円程度まで圧縮できる
- 特定技能への移行を見据えると採用・入国コストの繰り返し発生を防ぎ、中長期的にはコスト最適化が可能
育成就労の費用設計や監理支援機関の選び方については、入管専門の行政書士に相談することで、コストの見落としを防ぎながら適切な移行計画を立てることができます。2027年4月の施行まで時間は限られています。自社の採用規模・体制を踏まえた具体的なシミュレーションを、今すぐ始めることをおすすめします。