「外国人のお客様が入院したのに、帰国後に連絡が途絶えてしまった…」
「取引先を日本に招待したいが、もし病気になったときの対応が心配だ」
こうした声が、日本全国の医療機関や企業担当者から急増しています。訪日外国人の医療費未払い問題が深刻化するなか、日本政府は2026年4月から入国審査の基準を大幅に厳格化し、さらに2028年度を目標に民間医療保険の加入義務化を検討しています。今回は、外国人ビジネスゲストを日本に招へいする機会のある企業担当者の方々に向けて、制度の最新動向と今すぐ取るべき対応策を徹底解説します。
- 外国人訪問者の医療費未払いがなぜ問題なのか、最新データで確認できる
- 2026年4月から始まる「1万円基準」の入国審査厳格化の詳細がわかる
- JESTAと連動する医療保険義務化に向けて、企業が今すぐ取るべき具体的な対応策がわかる
義務化が正式決定してから動き始めても間に合わない可能性があります。ぜひ本記事を参考に、先手を打った準備を進めてください。
外国人訪問者の医療費未払い問題が急増している背景
訪日外国人による医療費未払い問題が注目を集めています。この問題を理解するには、日本の医療制度と訪日外国人の立場を正確に把握しておく必要があります。
短期滞在者は公的医療保険に加入できない
日本で90日未満の「短期滞在」在留資格で入国した外国人は、日本の公的医療保険(国民健康保険・健康保険)に加入できません。そのため、日本の医療機関を受診した場合、医療費は全額自己負担(10割)となります。
日本の医療費は世界的に見て比較的低廉ですが、入院・手術が必要なケースでは数百万円から1,000万円を超える費用が発生することもあります。旅行中に突然の事故や重病に見舞われた場合、多くの外国人旅行者にとってその支払いは容易ではありません。
インバウンド急増で問題が深刻化
2024年の訪日外国人数は過去最高の約3,687万人に達しました。インバウンド需要の回復とともに医療機関を受診する外国人も増加し、それに比例して未払いのリスクも高まっています。
観光庁が2023年10月〜2024年2月に実施した実態調査(国内5空港、3,069人対象)では、訪日外国人の医療保険加入率は約73%にとどまり、約27%が旅行保険なしで来日していることが明らかになりました。保険未加入の主な理由は次のとおりです。
- 「加入の必要性を感じない」(36%)
- 「加入意識がなかった」(23%)
- 「保険の存在を知らなかった」(21%)
- 「滞在日数が短いので不要」(東アジア系に多い)
また、訪日後に加入できる「インバウンド旅行保険」の認知率は非常に低く、全体のわずか5%しか活用していないことも課題として指摘されています。
なぜ未払いが起きるのか
未払いが発生する主なパターンは以下のとおりです。
- 高額な医療費を請求された時点ですでに手持ちの現金が不足していた
- 旅行保険に加入していたが、使い方がわからなかった(言語の壁)
- 「後で支払う」と約束して帰国後に連絡が途絶えた
- 旅行保険の保障上限を超えた部分が未払いになった
- 保険加入がなく、最初から支払う意思がなかったケース
特に問題となるのは「帰国後の連絡途絶」で、法的な強制力が届かないため、医療機関側が泣き寝入りを余儀なくされるケースが後を絶ちません。
厚生労働省の調査が示す深刻な実態
厚生労働省は毎年「医療機関における外国人患者の受入に係る実態調査」を実施しています。最新データからは、問題の深刻さが明確に読み取れます。
急増する未収金の規模
外国人患者による医療費未収金は年々増加し続けています。厚生労働省の調査によると、未収金総額は以下のように推移しています。
| 調査年度 | 未収金総額(年間) | 増加率 |
|---|---|---|
| 令和3年度(2021年度) | 約8億8,501万円 | 基準年 |
| 令和5年度(2023年度) | 約13億2,835万円 | 約50%増 |
| 令和6年度(2024年度) | 約13億円 | 高止まり |
2024年9月の1か月間だけで、全国の外国人患者11,372人のうち0.8%にあたる患者が未払いとなり、その総額は約6,135万円に上りました。年間に換算すると7億円超が事実上回収不能になっている計算です。
高額未払いが急増している
特に問題なのは、1件あたりの高額未払い事例が急増していることです。令和5年度(2023年度)の調査では、次のような驚くべきデータが明らかになりました。
- 1件あたりの最高未払い額:1,846万円(前年度最高額522万円の約3.5倍)
- 100万円超の高額未払い件数:42件(前年度12件から3.5倍増)
- 未払いが発生した病院の割合:受け入れ病院の18.3%
2025年1月には、日本経済新聞が1件1,187万円の未払い事例を報道するなど、高額ケースは後を絶ちません。入院・手術を伴うケースでは医療費が数百万円単位となり、旅行保険の上限額を超えてしまうことも多く発生しています。
問題が深刻な地域・病院
地域別では、観光客が集中する地域での問題が顕著です。沖縄県では、県内救急病院への調査で2024年3月までに21件の未払いケース、合計約827万円の未収金が発生したことが報告されています。また、一部の救急病院では月間500万円超の未収金が常態化しているケースも確認されています。
注意:外国人患者の医療費未払いは、医療機関の経営問題だけではなく、地域の救急医療体制を脅かす問題へと発展しています。未払いリスクを懸念して外国人患者の受け入れを制限する医療機関が増えると、緊急時に適切な医療を受けられない外国人が増加するという悪循環を生む恐れがあります。
2026年4月から「20万円→1万円」に引き下げ!入国審査が大幅厳格化
こうした問題に対応するため、政府は2026年2月4日、医療費未払い者の入国審査に関する重要な制度変更を発表しました。
報告システムの基準が大幅引き下げ
厚生労働省は2021年5月から「訪日外国人受診者医療費未払い情報報告システム」を運用してきました。医療機関が20万円以上の医療費未払いを報告すると、その情報が出入国在留管理庁(入管庁)に共有され、当該外国人が再来日する際の入国審査で参照・活用される仕組みです。
2026年4月1日からは、この報告基準が「1万円以上」に大幅引き下げられます。これにより、報告対象となる外国人の範囲が劇的に広がります。
| 項目 | 変更前(〜2026年3月) | 変更後(2026年4月〜) |
|---|---|---|
| 報告対象となる未払い額 | 20万円以上 | 1万円以上 |
| 対象者 | 短期滞在者(観光客等) | 短期滞在者+中長期在留者(2027年度〜) |
| 審査活用方法 | 再入国時の入国審査 | 再入国審査+在留資格更新審査(2027年〜) |
| 想定される結果 | 大額未払いのみ厳格審査 | 少額未払いでも再入国拒否の可能性 |
2027年度以降は中長期在留者にも拡大
さらに、2027年度(令和9年度)以降は対象が中長期在留者(留学生・就労ビザ保持者・技能実習生等)にも拡大される予定です。中長期在留者の国民健康保険料の滞納や国民年金の未納も、在留資格の更新・変更審査に反映される方向で整備が進んでいます。
企業への影響:日本に招へいした外国人ビジネスゲストが訪日中に1万円以上の医療費を未払いのまま帰国した場合、次回の入国審査で厳格対応(再入国拒否を含む)の対象となります。招へい企業としての信頼性にも影響する可能性があるため、今から対策を講じておくことが重要です。
JESTAと連動する民間医療保険義務化の全容
政府が検討している医療保険義務化は、2028年度に導入予定の電子渡航認証制度「JESTA」と密接に関連しています。
JESTAとは何か
JESTA(Japan Electronic System for Travel Authorization)は、米国のESTAや欧州のETIASに相当する日本版の電子渡航認証制度です。2026年3月10日に入管法改正案が閣議決定され、2028年度中の導入が目標とされています。
JESTAの主な概要は以下のとおりです。
- 対象者:日本とビザ免除協定を締結している74か国・地域(フランス、ドイツ、英国、米国、カナダ、韓国、台湾など)の国民
- 対象者の滞在目的:観光・商用・知人訪問など短期滞在(90日以内)全般。ビジネスビジターも含む
- 申請費用:1,500〜3,000円程度(推計)
- 有効期限:2〜5年間(複数回入国可能)
- 目的:不法滞在者の削減・安全保障強化・入国管理の効率化
医療保険義務化との連動
政府の検討では、JESTA申請時に旅行保険の加入証明を提出させる方向性が示されています。2025年12月に時事通信が「医療保険、渡航前審査に義務付け」を報道し、2026年1月23日の関係閣僚会議でまとめられた「外国人の受入れ・秩序ある共生のための総合的対応策」にも義務化推進の方向性が盛り込まれました。
ただし、2026年3月時点では保険の最低保障額や具体的な義務化の法的根拠はまだ確定していません。制度設計は現在進行中であり、詳細は今後の政府発表を注視する必要があります。
政府の検討経緯
- 2023年2月:日本医師会が自民党に「短期滞在者への民間医療保険加入促進措置」を求める提言
- 2025年2月:河野太郎議員が「短期滞在入国者への民間医療保険加入義務化が検討中」と公表
- 2025年6月:自民党外国人政策本部が義務化を政府に要求する提言
- 2025年12月:時事通信「渡航前審査に義務付け 政府検討」と報道
- 2026年1月:関係閣僚会議で総合対応策を決定
- 2026年3月:JESTA導入の入管法改正案を閣議決定
欧州シェンゲン協定の義務化モデルに学ぶ
日本の義務化検討において参考にされているのが、欧州のシェンゲン協定における旅行保険義務制度です。すでに確立された制度として、日本の設計に大きな影響を与えています。
シェンゲン協定の旅行保険義務の仕組み
シェンゲン協定(フランス・ドイツ・イタリア・スペイン・オランダ等29か国が参加)へのビザ申請者は、全員が旅行保険の加入証明を提出しなければなりません。その主な要件は次のとおりです。
- 最低保障額:3万ユーロ以上(日本円で約480〜500万円)
- 適用範囲:シェンゲン加盟国全域
- 補償内容:緊急医療・救急搬送・死亡を補償するもの
- 適用対象:観光・商用いずれのビザ申請者も同様に義務
このモデルがビザ申請段階での保険確認を義務化しているのに対し、日本が検討しているJESTAモデルは「渡航認証申請」の段階で保険証明を求めるという点で類似した仕組みになります。
その他の国の義務化事例
| 国・地域 | 対象ビザ | 最低保障額 | 義務内容 |
|---|---|---|---|
| シェンゲン圏(欧州29か国) | シェンゲンビザ | 3万ユーロ(約500万円) | ビザ申請時に加入証明提出必須 |
| タイ | Non-Immigrant O-A(リタイアメント) | 怪我4万バーツ・病気40万バーツ | 2019年から義務化 |
| オーストラリア | 学生ビザ(Subclass 500) | OSHC基準 | ビザ取得前に加入必須 |
| シンガポール | ワークパーミット・Sパス | 雇用主が手配義務 | 雇用主に医療保険加入義務 |
| 日本(検討中) | JESTA対象74か国(ビザ免除) | 未確定(市場目安:1,000万円) | 2028年度をめどに義務化検討 |
シェンゲンモデルとの最大の違いは、日本では「ビザが不要な国(ビザ免除国)」を対象にするという点です。JESTAという新たな渡航認証制度を設けることで、従来のビザ審査の枠組みを使わずに保険加入確認ができる仕組みを構築しようとしているのが日本の特徴です。
企業が今すぐ取るべき対応策
義務化が正式決定する前でも、外国人ビジネスゲストを招へいする企業には早急な対応が求められています。特に2026年4月からの「1万円基準」の入国審査厳格化は確定事項であり、すでに対策を始める必要があります。
①招へい時の保険加入案内を標準化する
外国人ビジネスゲストに招待状を送付する際、旅行保険への加入を強く推奨する案内文を英語(または相手の言語)で同封することを標準手順にしましょう。案内には以下の内容を含めることをお勧めします。
- 日本では短期滞在者が公的医療保険に加入できない旨の説明
- 医療費が高額になった場合の自己負担リスクの明示
- 訪日外国人向け旅行保険の案内(TOKIO OMOTENASHI POLICYのURLなど)
- 日本入国後5日以内に加入できる保険があることの案内
②保険加入確認を招へい手続きに組み込む
訪問前に保険証券のコピーまたは加入証明を共有してもらうフローを作ることで、万が一の際の対応がスムーズになります。また、招聘理由書や滞在計画書の作成時に保険に関する情報を整理しておくことも、将来の制度変更への備えとなります。
③緊急時の対応プロトコルを整備する
外国人ゲストが急病・事故に遭った場合の対応手順を社内で整備しておきましょう。特に以下の点が重要です。
- 医療費未払いが招へい企業の信頼性・次回の招へい申請に影響する可能性があることを担当者間で共有
- ゲストが加入している保険会社の24時間緊急連絡先を事前に確認
- 「キャッシュレス診療」が可能な医療機関リストの把握(東京海上・損保ジャパンの契約医療機関)
- 多言語対応可能な医療機関の事前リストアップ
④法人包括保険の導入を検討する
外国人ゲストの訪日頻度が年間を通じて多い企業(目安:年間1,000名以上)は、法人として包括訪日旅行保険に加入することで、コスト削減と手続き効率化を同時に実現できます。
ポイント:法人包括保険は通常の個人向け保険と比べて約30%割引となります(損保ジャパン)。訪日頻度が高い企業にとってはコストメリットが大きく、企業のリスク管理の観点からも有効な選択肢です。
訪日外国人向け保険商品の選び方と費用感
実際にどのような保険商品があるのか、代表的な商品と費用感をご紹介します。
個人向け:東京海上日動「TOKIO OMOTENASHI POLICY」
訪日外国人向けの個人保険として最も広く普及している商品です。主な特徴は以下のとおりです。
- 対象:訪日外国人(31日以内の滞在)
- 最大補償額:1,000万円(治療費・移送費)
- 申込タイミング:中国・香港・韓国からは渡航30日前から事前申し込み可能。その他の国は日本入国後5日以内に加入可能
- 特徴:43言語対応の医療通訳、キャッシュレス診療、パスポート紛失対応
| 保険期間 | 保険料(目安) |
|---|---|
| 1日まで | 約800円 |
| 7日まで | 約2,960円 |
| 15日まで | 約5,090円 |
| 31日まで | 約9,420円 |
7日間でわずか3,000円程度という手頃な費用で、最大1,000万円の補償が受けられます。外国人ゲストに案内する際の参考価格として活用してください。
法人向け:損保ジャパン「包括訪日旅行保険」
年間を通じて多数の外国人訪問者がある企業向けの法人包括契約です。
- 対象:年間を通じて多数回・多人数の訪日が見込まれるグローバル企業、旅行代理店、宿泊施設
- 利用規模の目安:年間約1,000名以上
- 最大補償額:1,000万円(治療費)、保険期間30日まで
- 手続き方法:月15日締め・翌月1日から契約開始。専用管理サイトで渡航者カードの発行・延長・取消が一括管理可能
- 費用メリット:通常の個人向け保険料と比べて約30%割引(暫定納付・年度末精算方式)
空港での加入(緊急時・直前対応)
外国人ゲストが保険未加入のまま来日してしまった場合は、羽田・成田・関西・中部等の主要空港にある保険カウンターで入国後5日以内に加入できます。事前案内が届かなかったケースの緊急対応として覚えておきましょう。
2028年に向けた企業の準備スケジュール
義務化に向けた政府の動きを整理し、企業として何をいつまでに準備すべきかをまとめました。
制度変更のタイムライン
| 時期 | 制度変更・予定内容 | 企業の対応 |
|---|---|---|
| 2026年4月(確定) | 医療費未払い報告基準を1万円以上に引き下げ。再入国審査の厳格化 | 招へい時の保険加入案内を標準化 |
| 2026年度中 | JESTAの制度設計・詳細発表(予定) | 社内インバウンド受け入れ手順の見直し着手 |
| 2027年4月頃(予定) | JESTA申請の受付開始。中長期在留者の未払いも在留審査に反映開始 | ゲストへのJESTA申請案内フロー整備。在日外国人社員の健康保険管理強化 |
| 2028年度(目標) | JESTA本格稼働。医療保険義務化の可能性(詳細は未確定) | 法人包括保険への加入または保険代理店との契約確認。外国人ゲスト受け入れフロー全体更新 |
今すぐ始める準備チェックリスト
- □ 外国人ゲスト招へい時の保険加入推奨文書(英語版)を作成する
- □ 緊急時の対応プロトコル(保険会社への連絡方法、キャッシュレス医療機関リスト)を社内整備する
- □ 年間訪問者数を確認し、法人包括保険の導入可否を損保ジャパン・東京海上に問い合わせる
- □ 総務・人事・法務部門でJESTAと医療保険義務化の情報を共有する
- □ 在日外国人社員の健康保険・国民健康保険の加入状況を確認する
まとめ:先手を打つ企業が競争優位を持つ
外国人訪問者への民間医療保険義務化は、2028年度の正式導入に向けて着実に進んでいます。すでに確定している2026年4月の入国審査厳格化(1万円基準)への対応は待ったなしであり、早期に社内フローを整備した企業ほど、外国人ビジネスパートナーとの信頼関係を強固に保てます。
義務化の詳細が確定してから動き始めるのでは遅すぎる可能性があります。本記事を参考に、今すぐ「招へい時の保険加入案内の標準化」から取り組みを始めることをお勧めします。外国人の招へいや在留資格に関するご相談は、ぜひMIRAI行政書士事務所にお気軽にお問い合わせください。



