「技能実習生が修了を迎えるが、このまま貴重な人材を手放したくない」「協力会社が特定技能外国人を採用したいと言っているが、元請けとして何をすべきか」
造船業界では、こうした声が経営層・人事担当者から多く聞かれます。特定技能「造船・舶用工業」分野は2024年12月末時点で9,665人が在留し、フィリピン・インドネシア・ベトナムを中心に着実に受入れが進んでいます。
本記事では、造船所が特定技能外国人を受け入れる際の元請け・協力企業間の連携体制の構築方法、安全衛生教育の法的義務と実務対応、そして技能実習からの移行促進策を体系的に解説します。
・造船・舶用工業分野の最新受入れ実態と国籍別の傾向(2024年末データ)
・令和6年3月の業務区分再編(6区分→3区分)の内容と移行措置
・元請け造船所と協力企業それぞれが担うべき役割と手続き
・安全衛生教育の法的義務と多言語対応の実務ポイント
・協議会加入の新ルール(令和6年6月〜申請前必須)と費用感
造船・舶用工業分野の特定技能受入れ実態(2024年最新データ)
在留者数と国籍別の傾向
出入国在留管理庁の発表によると、2024年12月末時点の造船・舶用工業分野の特定技能1号在留者数は9,665人(特定技能2号は74人)です。前年同期(2023年12月末:約8,000人)から大幅に増加しており、制度の定着が進んでいます。
| 国籍 | 在留者数 | 全体比 |
|---|---|---|
| フィリピン | 5,235人 | 約54% |
| インドネシア | 1,946人 | 約20% |
| ベトナム | 1,526人 | 約16% |
| その他 | 約958人 | 約10% |
地域別では、造船業の集積地である広島県(2,297人)・愛媛県(1,177人)・香川県(1,005人)・長崎県(720人)が上位を占めています。
技能実習からの移行が9割超を占める理由
造船・舶用工業分野の特定技能外国人のうち、実に9割超が技能実習からの移行によるものです。これは以下の背景があります。
- 造船分野の技能実習制度の歴史が長く、フィリピン・インドネシア等との送出し機関とのパイプが確立している
- 溶接・塗装・鉄工等の技能は、実習期間中に日本の造船現場に特化した技能を習得できる
- 技能実習2号を修了した場合、特定技能1号の技能試験・日本語試験が免除されるため移行が容易
- 既に現場のルール・安全知識・チームワークを身につけた人材を継続雇用できる
令和6年3月:業務区分が6区分から3区分に再編
旧6区分から新3区分への変更内容
2024年3月29日の閣議決定により、造船・舶用工業分野の業務区分が大幅に再編されました。
| 新区分(3区分) | 統合された旧区分の主な内容 |
|---|---|
| 造船 | 溶接・塗装・鉄工・とび・配管・船舶加工 等 |
| 舶用機械 | 機械加工・鋳造・金属プレス加工 等 |
| 舶用電気電子機器 | 電気機器組立て・プリント配線板製造 等 |
旧試験合格者への移行措置(試験受け直し不要)
区分再編に際して、重要な移行措置が設けられています。旧6区分の試験に合格した者は、自動的に新区分の合格者とみなされます。
例えば、旧「溶接」区分の合格者は新「造船」区分の合格者として扱われます。すでに採用している特定技能外国人や技能実習修了者について、試験を受け直させる必要はありません。
新区分の試験実施スケジュール
新3区分に対応した特定技能1号評価試験は、試験実施機関である一般財団法人日本海事協会(ClassNK)が実施します。試験には2種類あります。
- 集合方式:年1回のみ、全国の特定会場で実施
- 出張試験方式:受験者側が会場・機材を用意して日本海事協会に申請する形式(試験日の3か月前までに申請が必要)
大手造船所や協力会社が集積する地域では、企業が集合して会場を設定し出張試験を誘致するケースも増えています。
元請け造船所と協力企業の受入れ体制構築
直接雇用原則と派遣不可の明確なルール
造船・舶用工業分野では、特定技能外国人の派遣雇用は一切認められていません。農業・漁業分野とは異なり、直接雇用かつフルタイム勤務が必須です。
これは現場で見落としやすい重要なポイントです。元請け造船所が協力企業の特定技能外国人を実質的に指揮命令する状態(いわゆる偽装請負・実態的派遣)は違法となるリスクがあるため、現場配置・指揮命令系統を明確に整理しておくことが不可欠です。
協力企業が受入れ企業になる場合の手続き
造船現場では、協力会社(下請け・孫請け)が特定技能外国人を雇用するケースが多くあります。この場合、協力会社自身が受入れ企業として独立して手続きを行う必要があります。
- 協力会社が造船・舶用工業分野特定技能協議会に個別加入する(元請けの加入とは別に必要)
- 協力会社が特定技能雇用契約書・支援計画を作成・締結する
- 登録支援機関への委託は協力会社が独自に行う
- 定期的な届出(採用時・6か月ごとの報告)も協力会社が行う
元請けは協力会社の手続きを法的に代行することはできませんが、ノウハウ提供・協議会加入のサポート・登録支援機関の紹介・現場での生活サポートなどで協力企業を支援することは可能です。大手造船所では、協力会社向けの特定技能受入れガイドブックを作成・配布するケースも増えています。
元請けと協力企業の役割分担(整理)
| 事項 | 元請け造船所の役割 | 協力企業の役割 |
|---|---|---|
| 協議会加入 | 自社分を申請 | 独自に申請(必須) |
| 雇用契約・支援計画 | 自社雇用分のみ | 自社で作成・締結 |
| 在留申請 | 自社雇用分のみ | 自社(or行政書士)が申請 |
| 安全衛生統括管理 | 特定元方事業者として全体統括 | 自社雇用外国人の雇入れ時教育 |
| 現場指揮命令 | 自社作業員のみ | 自社雇用外国人のみ(元請けが直接指揮するのは不可) |
安全衛生教育の実施と法的義務
特定元方事業者としての元請け造船所の義務
造船所は建設業と同様に、元方事業者(元請け)と関係請負人(協力企業)が同一現場で混在作業を行う「特定元方事業者」に該当します。労働安全衛生法第30条により、特定元方事業者には以下の義務が課せられています。
- 協議組織の設置・運営:元請けと全協力会社の代表者からなる安全衛生協議会の月1回以上の開催
- 作業間の連絡調整:元請けと協力会社間の作業スケジュール・危険箇所の情報共有
- 巡視の実施:元請けの安全担当者が混在作業場所を毎作業日1回以上巡視
- 安全衛生教育への援助:協力会社が行う新規入場者教育・技能教育に対し、場所・資料・講師の提供等の援助
これらの義務は、協力会社の外国人労働者を含む全作業員に適用されます。
外国人向け安全衛生教育の多言語対応
労働安全衛生法第59条に基づく「雇入れ時の安全衛生教育」は、外国人が雇用される場合でも日本人と同様に実施する義務があります。外国人が教育内容を理解できるよう、以下の工夫が実務上求められます。
- 教育資料の多言語対応(フィリピン語・インドネシア語・ベトナム語等)
- 図解・イラストを多用した視覚的な教材の活用
- 通訳者または二言語対応のリーダー(バイリンガル班長)の活用
- 新規入場者教育の確認テスト実施(理解度チェック)
特定技能1号の義務的支援(生活オリエンテーション)との関係
特定技能1号外国人には、受入れ企業が10項目の義務的支援を実施しなければなりません。このうち「生活オリエンテーション」(入国後・転職後8時間以上)には、日本の安全ルールや交通ルール、緊急時の対処法などの説明が含まれます。
安全衛生教育と義務的支援の生活オリエンテーションは別々の義務ですが、同時・一体的に実施することで効率化できます。登録支援機関に委託する場合は、安全衛生教育の実施タイミングと支援内容を事前にすり合わせておくことが重要です。
協議会加入と申請手続きの流れ
令和6年6月から変わった協議会加入のタイミング
2024年6月15日以降、在留申請時に「造船・舶用工業分野特定技能協議会の構成員であることの証明書」の提出が必須となりました。従来は受入れ後4か月以内の加入でよかったため、手続きの順序が根本的に変わっています。
「以前は採用後4か月以内でよかった」という古い情報のまま手続きを進めると、在留申請時に証明書が揃わず申請が滞るケースが発生しています。必ず在留申請前に協議会加入を完了させてください。また、様式第1号(事業者確認)と様式第7号(協議会加入申請)の同時申請も必須化されています。
申請手続きの全体フロー
- 事業者確認申請(様式第1号)と協議会加入申請(様式第7号)を同時に国土交通省海事局へ郵送申請
- 協議会構成員証明書・事業者確認通知書を取得
- 採用する外国人の資格要件確認(技能試験合格 or 技能実習2号修了)
- 雇用契約締結・特定技能雇用契約書と支援計画を作成
- 出入国在留管理庁に在留資格変更(または在留資格認定証明書)申請
- 許可取得・就労開始
費用の目安
| 費用項目 | 金額目安 |
|---|---|
| 協議会加入費 | 無料 |
| 在留資格変更申請手数料(入管) | 6,000円 |
| 行政書士への申請代行費用 | 12〜25万円/人 |
| 海外採用時の送出し機関手数料 | 10〜60万円/人 |
| 登録支援機関委託費(月額) | 2〜4万円/月 |
| 在留更新代行費用(1回) | 3〜10万円/人 |
特定技能2号への育成と2027年以降の展望
全区分に拡大した特定技能2号の要件
2023年6月の閣議決定により、造船・舶用工業分野の特定技能2号は従来の「溶接区分のみ」から全区分(造船・舶用機械・舶用電気電子機器)に拡大されました。特定技能2号を取得すると、在留期間の上限がなくなり(無制限更新)、家族帯同も条件付きで可能になります。
2号取得のための要件:
- 造船・舶用工業分野特定技能2号評価試験(または技能検定1級)の合格
- 複数の作業員を指揮・命令・管理する監督者としての2年以上の実務経験
- 受入れ企業が「実務経験に係る証明書」を作成・提出
育成就労制度(2027年4月施行)との関係
2024年6月に成立した育成就労制度は、技能実習制度を廃止し2027年4月1日から施行される新たな制度です。造船・舶用工業分野も対象となり、以下のようなキャリアパスが整備されます。
育成就労(最長3年)→ 特定技能1号(最長5年) → 特定技能2号(無期限)
・育成就労は「人材育成・人材確保」が目的(技能実習の「国際貢献」から転換)
・1年経過後、一定条件を満たせば転籍が可能に(技能実習では原則不可)
・育成就労3年修了後、技能試験・日本語試験免除で特定技能1号へ移行
大手造船所は今から協力企業を含めた長期的な外国人材育成計画を策定し、技能実習→特定技能1号→2号へのキャリアアップを見据えた受入れ体制を整えておくことが競争優位につながります。
よくある質問(Q&A)
Q. 技能実習2号「溶接」修了者を新区分「造船」で採用できますか?
A. できます。令和6年3月の業務区分再編により旧「溶接」区分は新「造船」区分に統合されたため、旧区分の試験合格者は新区分の合格者とみなされます。技能実習2号を良好修了した場合は、日本語試験・技能試験ともに免除で特定技能1号へ移行可能です。
Q. 協力会社(下請け)が特定技能外国人を雇う場合、元請け造船所の手続きは不要ですか?
A. 直接雇用する協力会社が独立して全手続きを行います。元請けの手続きは不要ですが、元請けは安全衛生法上の特定元方事業者として、協力会社の外国人労働者も含めた統括安全衛生管理の義務を負います。また、元請けが協力会社の外国人を直接指揮命令する形(実質的な派遣状態)は法律違反となります。
Q. 造船分野の特定技能外国人の給与水準の目安はどのくらいですか?
A. 「日本人が同等業務に従事する場合の報酬額と同等以上」であることが法律上の要件です。広島・愛媛・香川など地方の造船集積地では月給18〜25万円程度が目安とされています。国籍を理由とした差別的な賃金設定は違法であり、残業手当・住宅手当・交通費等の諸手当も日本人と同等に支給することが求められます。
Q. 特定技能2号の「監督者としての実務経験2年」は誰が証明しますか?
A. 受入れ企業が「造船・舶用工業分野2号特定技能外国人に求められる実務経験に係る証明書」を作成・提出します。監督者とはグループ長等であり、部下への作業指示・製作物の確認・安全確保のための環境点検・作業計画の作成・進捗管理等を行いながら造船業務に従事した実績を証明します。
Q. 造船分野の協議会加入はいつまでにすればよいですか?
A. 2024年6月15日以降、在留資格の申請前に加入を完了させることが必須です。様式第1号(事業者確認)と様式第7号(協議会加入申請)を同時に国土交通省海事局船舶産業課へ郵送申請します。加入費は無料です。
Q. 特定活動(外国人造船就労者受入事業)と特定技能はどう違いますか?
A. 特定活動(造船)は国土交通省の認定を受けた大手造船所のみが利用できる制度です。一方、特定技能は認定造船所でなくても要件を満たせば中小の協力企業を含め幅広く活用できます。現在は特定技能への移行が主流となっています。
まとめ
造船所での特定技能外国人受入れのポイントを整理しました。
- 2024年12月末で9,665人が在留。フィリピンが約54%を占め、9割超が技能実習からの移行
- 令和6年3月に業務区分が6→3区分に再編。旧試験合格者は試験受け直し不要
- 協力企業が採用する場合は元請けとは別に独立して手続きが必要。元請けは安全衛生管理の統括責任を負う
- 令和6年6月から協議会加入は在留申請前が必須に変更。古いルールとの混同に注意
- 2023年改正で特定技能2号が全区分に拡大。長期定着・管理職育成の道が広がった
- 2027年の育成就労制度施行を見据え、今から長期的な外国人材育成計画を策定することが重要
造船分野の特定技能手続きは、協議会加入タイミングの変更・業務区分の再編など、近年制度変更が多く専門的な知識が求められます。MIRAI行政書士では造船・舶用工業分野の特定技能申請を専門的にサポートしております。まずはお気軽に無料相談をご利用ください。


