「育成就労で外国人を採用したいけど、送出費用ってどのくらいかかるの?上限があると聞いたが…」
育成就労制度(2027年4月施行予定)では、送出費用に明確な上限規制が設けられています。技能実習制度時代に問題となった高額な送出費用を是正し、外国人が借金を抱えて来日するという構造的問題を根本から解消することが目的です。
・送出費用の上限は具体的にどう設定されているのか?
・不適正な送出機関をどうやって見分けるのか?
・企業として送出機関を選ぶ際に何を確認すればよいのか?
本記事では、育成就労制度の送出費用上限規制の詳細、二国間協定の枠組み、不適正送出機関の排除仕組み、企業が実務上押さえるべきチェックポイントを、行政書士の視点から詳しく解説します。
技能実習制度における送出費用問題の実態

育成就労制度が「送出費用上限規制」を柱の一つとして掲げた背景には、技能実習制度における深刻な送出費用問題があります。
技能実習時代の高額送出費用がもたらした弊害
技能実習制度において、送出国(ベトナム・インドネシア・フィリピン等)の送出機関が技能実習生から徴収する送出費用は、公式には規制がなく、実態として非常に高額になるケースが多発していました。
調査によれば、ベトナム人技能実習生の場合、送出費用として50万〜100万円以上を支払うケースが珍しくなく、中には150万円を超えるケースも報告されています。この費用は多くの場合、銀行ローンや親族からの借金によって賄われており、来日前に多額の負債を抱えた状態で日本での就労が始まることになります。
- 高額な借金を抱えた状態での来日 → 返済のために失踪・不法就労への誘引
- 送出機関への過度な依存 → 外国人の交渉力低下・不当な条件受け入れ
- 送出費用の一部が不透明なルートで流れる → ブローカーや不正業者への資金供給
- 高額費用を回収できない場合の帰国困難 → 技能実習生の孤立・搾取
この問題は国際社会からも強く批判され、ILO(国際労働機関)や米国国務省の人身売買報告書でも日本の技能実習制度が取り上げられるなど、国際的な評判の低下につながりました。送出費用問題は、技能実習制度廃止・育成就労制度創設の直接的な引き金の一つです。
育成就労制度での送出費用規制の方向性
育成就労制度では、技能実習時代の反省を踏まえ、送出費用の透明化・適正化を制度的に担保する仕組みが導入されます。
主な改革の方向性は以下のとおりです。
- 送出費用の上限規制:報酬月額の2か月分以内という数値基準の設定
- 費用明細の開示義務:何にいくら支払ったかを外国人本人が把握できる仕組み
- 不適正送出機関の認定・公表:問題のある送出機関をリストアップし排除
- 二国間協定による国家間の連携強化:送出国政府を巻き込んだ管理体制
- 監理支援機関による送出機関の審査強化:提携送出機関の適切性確認の義務化
これらの規制は、「外国人が借金なしで来日できる」環境を実現するための包括的な枠組みです。
送出費用上限「報酬月額2か月分以内」の詳細

育成就労制度の運用要領において、送出費用の上限として「報酬月額の2か月分以内」という基準が示されています。
「報酬月額2か月分以内」の計算方法
上限の計算式は、育成就労外国人が日本で受け取る予定の月額報酬(基本給+固定手当)に2を掛けた金額です。
例えば、日本での月額報酬が20万円に設定されている場合:
- 送出費用の上限:20万円 × 2 = **40万円**
- この上限を超える送出費用の徴収は不適正とみなされる
月額報酬18万円の場合は上限36万円、月額報酬22万円なら上限44万円という計算になります。送出費用の水準が外国人が受け取る報酬に連動して設定されることで、過大な費用負担が生じにくい構造になっています。
送出費用に含まれるもの・含まれないもの
「送出費用」の範囲についても運用要領で整理されています。
| 区分 |
具体的な費用項目 |
| 送出費用に含まれる(上限規制の対象) |
求人紹介費・マッチング費、書類作成支援費、送出機関の管理費、その他送出業務に関する手数料等 |
| 送出費用に含まれない(上限規制の対象外) |
本人が自ら選択した日本語学習費用、パスポート取得費用、健康診断費用(実費)、渡航費(実費相当) |
ただし、「送出費用に含まれない」とされる費用であっても、送出機関が過剰に徴収したり、外国人の選択の余地なく強制的に支払わせる場合は問題となる可能性があります。費用の区分について送出機関から明確な説明を受け、書面での確認を徹底することが重要です。
費用明細の交付と透明性確保の義務
育成就労制度では、送出機関が外国人本人に対して送出費用の明細を書面で交付することが義務付けられます。明細には各費用項目と金額が明記されており、外国人が何にいくら支払っているかを理解・確認できる状態でなければなりません。
この透明性要件は、外国人本人の権利保護とともに、企業・監理支援機関が送出機関の適切性を確認する際の根拠資料にもなります。企業が採用前に送出費用明細を確認することで、不適正な費用徴収が行われていないかをチェックできます。
二国間協定(MOC・EPA等)の枠組みと役割

育成就労制度の送出費用規制を実効的に機能させるために、日本政府は送出国との二国間協定(MOC:Memorandum of Cooperation)の締結・強化を推進しています。
二国間協定(MOC)とは何か
MOCは、日本と送出国との間で締結される政府間の協力覚書です。技能実習制度においても多くの国とMOCが締結されていましたが、育成就労制度ではその内容がより実効性のあるものに強化されます。
MOCの主な内容:
- 送出費用の水準に関する適正化の合意
- 不適正送出機関の情報共有・排除協力
- 外国人の権利保護に関する相互協力
- 失踪者・人身取引被害者の情報共有・支援
- 送出国政府による送出機関の監督・許可制度の整備
MOCを締結していない国からの育成就労外国人の受け入れは認められません。これにより、送出国政府が自国の送出機関を適切に監督する責任を持つ構造が確立されます。
主要送出国のMOC締結状況と特徴
現時点で育成就労制度に向けたMOC改定・新規締結が進んでいる主な送出国の状況:
| 国名 |
特徴・注意点 |
| ベトナム |
最大の送出国。送出機関(DOLAB許可機関)の管理が強化。高額送出費用問題の改善が重点課題 |
| インドネシア |
BP2MI(人力委員会)が国家管理。送出費用の国家管理強化が進む |
| フィリピン |
POEA(海外雇用庁)による厳格な送出管理。費用規制は比較的整備されている |
| ミャンマー |
政情不安により受け入れが停止されていた時期あり。2025年以降の動向要確認 |
| カンボジア・ネパール等 |
MOC締結国は増加中。各国の送出機関の認定状況を送出機関から確認が必要 |
MOC未締結国からの受け入れ禁止
育成就労制度では、MOCを締結していない国からの受け入れは認められません。企業が採用を検討する候補者の出身国がMOC締結国かどうかを事前に確認することが必要です。万一MOC未締結国の外国人を採用してしまった場合、受け入れが認められず採用計画に支障をきたす恐れがあります。採用活動開始前に、出身国のMOC状況を監理支援機関や行政書士に確認しておくことが重要です。
不適正送出機関の認定と排除の仕組み

育成就労制度では、問題のある送出機関を「不適正送出機関」として認定し、その情報を公表することで受け入れを禁止する仕組みが導入されます。
不適正送出機関に該当するケース
以下のような行為が確認された送出機関は、不適正送出機関として認定されるリスクがあります。
- 報酬月額2か月分を超える送出費用の徴収
- 費用明細の不交付・虚偽の明細交付
- 外国人に対する脅迫・強制・人身取引的行為への関与
- 育成就労外国人の転籍を不当に妨害する行為
- 送出国の許可・認定を受けていない無許可操業
- 日本側の監理支援機関への虚偽情報の提供
- 送出費用の返還拒否(失踪・帰国時等)
不適正認定のプロセスと影響
不適正送出機関として認定されると:
- 出入国在留管理庁のウェブサイト等で機関名・国名・認定理由が公表される
- 公表された機関と提携している監理支援機関は、提携解消が求められる
- 当該機関を通じた新規の育成就労外国人の受け入れができなくなる
- 既に在留している育成就労外国人への影響については個別に判断される
企業が受け入れ前に確認すべき送出機関の状況
採用前に監理支援機関を通じて以下の点を確認することが不可欠です。
- 送出機関が不適正機関リストに掲載されていないこと
- 送出国政府の許可・認定を現在も保持していること
- 過去に問題のある行為で行政処分を受けていないこと
- 費用明細の交付実績があること(サンプル確認推奨)
監理支援機関と送出機関の適切な連携体制

育成就労制度では、日本側の監理支援機関が提携する送出機関の適切性を審査・確認する義務が強化されます。
監理支援機関に課せられる送出機関審査義務
育成就労制度において監理支援機関は、提携する送出機関について以下の審査を行うことが義務付けられます。
- 送出国政府の許可・認定状況の確認(証明書類の取得・保管)
- 不適正送出機関リストへの非掲載確認(定期的な確認が必要)
- 送出費用上限規制の遵守状況の確認(費用明細の入手・確認)
- 送出機関の事業実態・経営状況の確認
- 育成就労外国人との契約内容の適正性確認
これらの審査を適切に行っていない監理支援機関は、行政指導・許可取消の対象となるリスクがあります。
送出機関との提携契約に盛り込むべき事項
監理支援機関と送出機関との提携契約には、以下の事項を明記することが求められます。
- 送出費用の上限(報酬月額2か月分以内)の遵守義務
- 費用明細の交付義務と違反時の提携解消条項
- 不適正認定を受けた場合の即時提携解消条項
- 外国人の権利保護に関する協力義務
- 情報開示・監査への協力義務
企業として監理支援機関に確認すべきこと
受け入れ企業の立場からも、選定する監理支援機関が送出機関を適切に管理しているかを確認することが重要です。
- 提携送出機関の一覧と各機関の審査状況の開示を求める
- 送出費用上限規制の遵守確認体制について説明を求める
- 不適正機関との提携解消実績・基準について確認する
- 過去に不適正機関との提携トラブルがなかったか確認する
企業が送出機関・監理支援機関を選ぶ際のチェックポイント

企業が育成就労外国人を適正に受け入れるためには、送出機関の適切性を入口で確認することが不可欠です。行政書士として実務でよく見るチェックポイントをまとめます。
送出機関に関するチェックリスト
- □ 送出国政府の正式な許可・認定を取得していることの証明書類を取得済みか
- □ 不適正送出機関リスト(出入国在留管理庁公表)に掲載されていないか
- □ 送出費用明細を書面で交付しており、月額報酬の2か月分以内に収まっているか
- □ 日本語教育の費用が明細に適切に記載されており、合理的な金額か
- □ 過去に高額送出費用・失踪多発・人身取引等の問題が報告されていないか
- □ 日本側の監理支援機関との連携体制が整備されているか
- □ 外国人からの相談窓口・苦情対応体制が整備されているか
監理支援機関に関するチェックリスト
- □ 許可証が有効期限内であることを確認済みか(出入国在留管理庁で確認可能)
- □ 提携送出機関の審査・管理体制について文書で確認できるか
- □ 送出費用上限規制の遵守状況を定期的に確認するプロセスがあるか
- □ 不適正機関リスト確認を定期的に実施していることの記録があるか
- □ 外国人からの相談を受け付ける体制(多言語対応)が整備されているか
- □ 育成就労外国人の転籍支援体制が整備されているか
書面確認のポイント
送出費用上限規制への違反は、最終的には受け入れ企業の責任問題にも発展する可能性があります。「監理支援機関に任せていた」では済まないケースもあるため、企業として送出費用明細のコピーを入手・保管することを強くおすすめします。
違反時のペナルティと企業リスク管理

送出費用上限規制や関連規制への違反は、送出機関だけでなく、日本側の監理支援機関・受け入れ企業にも影響が及ぶ可能性があります。
送出機関に対するペナルティ
- 不適正送出機関としての認定・公表(レピュテーションリスク)
- MOCに基づく送出国政府からの許可取消・業務停止
- 当該機関を通じた新規受け入れの全面停止
- 悪質な場合は刑事罰の対象となる可能性(人身取引等)
監理支援機関に対するペナルティ
- 行政指導・業務改善命令
- 許可の停止・取消(重大な違反の場合)
- 不適正送出機関との提携解消命令
受け入れ企業への影響
- 不適正な送出機関を通じた受け入れが発覚した場合、在留資格の更新・取得に影響する可能性がある
- 問題のある送出機関を通じた外国人が失踪した場合、受け入れ実績への悪影響
- 今後の育成就労外国人受け入れが困難になるリスク
企業として最低限すべきリスク管理
- 受け入れ前に送出費用明細書(外国人本人への交付書類)のコピーを入手・確認する
- 監理支援機関との契約書に「不適正送出機関を通じた受け入れが発覚した場合の対応義務」を明記する
- 毎年の不適正機関リスト確認を監理支援機関に求め、確認記録を保管する
- 採用する外国人本人から「送出費用が上限以内であることの確認書」等を取得する
行政書士が支援できる送出費用・送出機関管理の実務
育成就労制度の送出費用規制への対応には、実務上の書類整備・確認体制の構築が必要です。行政書士は以下の場面で支援できます。
- 送出機関の不適正リスト確認・送出国政府許可証の適正チェック
- 送出費用明細書の内容確認と上限規制(報酬月額2か月分以内)への適合チェック
- MOC締結国確認と送出国固有の手続き事項のアドバイス
- 定期的な不適正機関リスト確認の代行・記録管理
- 特定技能1号への移行申請を見据えた在留管理全体のサポート
- 転籍時の在留資格変更申請の書類作成・申請取次
企業が自社内で送出費用規制への対応をすべてカバーするのは、専門知識が必要なため難しい場面もあります。実績ある行政書士に定期的な管理をアウトソースすることで、コンプライアンスリスクを低減しながら採用・育成に集中できる環境が整います。
まとめ:育成就労の送出費用上限規制で押さえるべきポイント
育成就労制度の送出費用上限規制について、企業が実務上押さえるべきポイントをまとめます。
- 送出費用の上限は「報酬月額の2か月分以内」という数値基準が設定されている
- 送出費用明細の書面交付が義務化され、透明性確保が制度的に担保される
- 二国間協定(MOC)未締結国からの受け入れは禁止される
- 不適正送出機関は認定・公表され、当該機関を通じた受け入れが停止される
- 監理支援機関は提携送出機関の適切性審査・確認義務を負う
- 受け入れ企業も送出費用明細の確認・保管を行うことでリスク管理を強化できる
- 行政書士への依頼により、送出機関の適正確認・継続的な管理をアウトソースできる
技能実習制度での失敗を繰り返さないための制度設計が育成就労の根幹にあります。送出費用規制をコンプライアンスの観点から正しく理解し、適正な採用・管理体制を構築することが、持続可能な外国人材活用の第一歩です。不明点があれば、育成就労・入管業務に精通した行政書士に早めにご相談ください。